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公益社団法人日本山岳会

自己紹介  晝間 弘子

自己紹介

晝間 弘子(会員番号:13902)

「山を忘れない・山と向き合って生きたい」あれこれ・・・
 から「山と向き合い始めたあの頃」

長野県、長野市生まれ。小中学生頃までは、スポーツ万能だったと自画自賛。

お酒の味を知ったのも、20歳前なら、単独で山に入り、ぶらりと山歩きして、山小屋で数日過ごす・・当時としては、目立つ女の子だったという人がいる。

 一昨年、思いがけなく数十年ぶりに戸隠の懐かしい、懐かしい山小屋を訪れる機会を得た。当時の私を一番知っているオーナーのオヤジが(オヤジになっていた) 「すごい人だと思ったよ、単独でさ・・そういえばあの頃、貴女に叱られたもんなー、」「嘘でしょう、何で?」「何だったかなー」、「思い出せないけど」頭を掻きながら首を振った。内容は記憶にないと言いながら、感慨深げだった。私には、更に記憶がない。

 当時、手作りのまだ小さな小屋ながら、料理はすごく美味しかった。今では、大きな洒落たロッジとなり、息子さんがシェフとなって、フランス料理を出すという。親譲りだ。小屋の外に張られたハンモックの中で、本を読んだり、詩を書いたりしてのんびり過ごすひと時が大好きだった。夜は、ワインを傾けながら、ギターを爪弾きながら、出来立ての詩を朗読し、宿泊の客と歓談して楽しんだ。食堂には、ヒマラヤの山々や、厳冬期の穂高の写真のパネルが張られていた。「格好いい山だね」と二人でそのパネルに見入っていたことを、鮮明に記憶している。

 当時のオヤジ27歳、若いねー。戸隠山で遭難事故があるとレスキュー隊として馳せ参じる山ヤだった。今のオヤジは、悠々自適に、気ままに、戸隠、妙高方面のガイドをしているらしい。

 そして当時の私は、19歳。厚手の靴下にキャラバンシューズ、チェックの山シャツと細めの黒パンツ(登山ウエアーではない)、軽快なショートヘアー、濃いサングラス・ありふれた登山スタイルながら、(良く考えたら、今と変わってない)若さ溢れて(ここが違いすぎる)・・多分爽やかな魅力一杯の私・・と思いたい!いや、だった。(証拠写真による)そんな写真を見ていると、既に私の単独山行は、狭いー範囲で始まっていたようだ。

もうちょっと遡ってみると、山と向き合う、そんな行動をし始めたのには、幾つかのキーポイントがあった。

 一つは、信州に育った人ならほとんど経験あることだが、中学時代の就学登山である。私達は、中学1年で、美ヶ原高原、2年で燕岳に登った。13歳にしてあんな疲れたことはなかった、二度と山なんかには登らない・・と泣きべそかきながらの登頂だった。けれど、あれは、なんという山?遠くにそそり立つ槍ヶ岳をじっと見つめながら、きっといつか登る、と心に決めた登山だった。(長野にいる友人に言わせると、私は、楽に登っていた、泣いていたのは、自分だったと)・・・嘘、絶対楽じゃなかった。それにしても中房温泉からのピストン山行は、今も続いているらしい。

 もう一つは、長野高校の山岳部の部長をしていた兄の影響だと思う。我が家は、ドでかいキスリングを背負った部員がよく集まり、母が出すりんごやお菓子を卓球台の上で詰め込み、汗臭く、まるでいっぱしの登山家のたまり場のようであった。山男の匂いだった。すごく魅力的だった。兄が、高校3年になる部長のとき、参加できない山行があった。残雪の戸隠山だった。そんな時、後輩1年生が墜落するという悲劇が起きた。理髪屋の一人息子だった。そして兄は、山を止めた。あの山小屋のオヤジが、長野高校遭難事故をしっかり覚えていた。彼は、レスキュー隊員だった。

そして更に、1956年のマナスル登頂記録映画であり、授業をつぶしての全校挙げての映画鑑賞だった。もちろん映画館は貸し切、さすがに日本の屋根といわれるアルプスを持つ信州の学校だと思う。

 何日も山を登り詰めていく登山隊の長い行列、重たそうな荷物を体に括り付けられて、不安定に丸木橋を渡る動物達、裸足で荷揚げする現地の人々、日々真っ黒に日焼けしていく隊員達の顔、顔、実に忘れることが出来ない映像だった。そして何よりも、あの息遣いが脳裏に焼きついている。真っ青な空と真っ白な雪稜、アイゼンと隊員の吐く息だけが聞こえて、見ている自分の呼吸さえ止めてしまいそうな迫力だった。一歩、一歩、上がっていく。そして登頂。はためく日の丸に、館内は、割れるような拍手が鳴り止まず、映画館の外には笑顔いっぱいの泣き顔が溢れていた。

 あの映画は、山を登る迫力と、達成感と格好よさを私の脳裏に強烈なインパクトを与えてしまった。

兄も山小屋のオヤジも、そして私も、多感な青春時代のころに、山と向き合いはじめている。まだ山の何たるかも知らない私だったけれど、今日までの人との出会い、山との出会いが、あれから沢山のチャンスをくれた。

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