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公益社団法人日本山岳会

雷の直撃と心肺蘇生 723号

雷の直撃と心肺蘇生

志賀 尚子

 つい先日、神奈川県藤沢市で公園を散歩していた女性二人が、落雷により亡くなりました。この事故は、山やゴルフ場ばかりでなく、ごく身近な場所でも雷の危険があることを警告し、あらためて雷の怖さを印象づけました。
 雷に打たれた場合の死亡率は約30%であり、世界中で年間約1000人が雷によって死亡するといわれています。死亡のほとんどが直撃による即死で、電流が心臓を流れることによって起こる心室細動(重症不整脈、心筋が小刻みにケイレンする)や心静止(心筋の動きが停止してしまう)などの心停止が原因ですが、呼吸中枢の抑制による呼吸停止が原因のこともあります。
 ここでぜひ覚えておきたいのは、雷による心停止患者は、他の外傷や疾患による心停止に比べて心肺蘇生法による救命率が高く、さらに後遺症なく社会復帰できる可能性も高いことです。
 もしも一撃の雷で複数の負傷者が発生した場合、呼吸停止や心停止していない負傷者がその場で悪化する可能性は低く、むしろ回復する可能性が高いため、動いている人やうめき声を出している人の手当ては後回しにします。呼吸停止、心停止の人を最優先で助けなければなりません。すぐに心臓マッサージや人工呼吸を始めましょう。そして少なくとも30分は諦めずに続けて下さい。もし運良く心拍が再開したら、再び心停止となることは稀ですが、もちろん迅速に救援を依頼し、至急病院に搬送します。心臓は動いているのに呼吸は止まったまま、なかなか自発呼吸が戻らないこともあります。この場合も絶対に人工呼吸をやめてはいけません。なお、雷に打たれた人に触っても感電はしませんから、通常の感染予防を心がけるだけで十分です。
 雷撃そのものによる心停止ではなく、雷に打たれた衝撃で転落・墜落し、その際の外傷によって呼吸停止や心停止状態に陥った場合、原因は出血性ショック、脳挫傷、頚髄損傷その他になります。残念ながら、こういう場合では救命の可能性はほとんどありません。重症外傷による負傷者が同時に多数いる場合には、呼吸停止や心停止した人の蘇生は断念せざるをえないでしょう。受傷の原因によって、蘇生の対象を取捨選択しなければならないわけです。
 すべての基本として、山中で、特に事故の負傷者に心肺蘇生法を行う場合、第二の事故が起こらないよう、まず初めに現場周囲の安全を確認しておくことをお忘れなく。
 なお、UIAA-Med Com(国際山岳協会連合医療部会)が2003年に『雷の予防と現場処置に関するガイドライン』を出しており、No.708の「山」の医療コラムでもご紹介しています。興味のある方は参照して下さい。ホームページからも御覧になれます。

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