除細動器(AED)と山中の電気ショック
野口いづみ
最近、新聞やTVなどのマスコミで、心臓に電気ショックを与える除細動器が扱われているのを目にする機会が多い。これは正確には、“自動体外式除細動器”(Automated Extracorpal Defibllilator)のことで、英文の頭文字をとってAEDと呼ばれる。
“心停止”というと、心電図の波形がフラットになってしまうことをイメージしやすいが、突発性に起こる心停止は、心臓が小刻みに痙攣を起こして、ポンプ機能を失ってしまう“心室細動”と呼ばれる状態の場合が多い。痙攣状態の心臓を直流電流のショックの一撃を与えて、正気づかせようというものが除細動である。除細動器は以前からあったが、AEDの新しい点は、電極を胸に貼り付ければ、電気ショックが必要な状況かどうかを、自動で解析して教えてくれるということである。専門家でなくても除細動の必要な事態がわかり、ボタンを押せば除細動ができる。昨年7月に法改正され、一般の方でもAEDを使った除細動ができるようになった。欧米に比べて日本での普及は遅れていたが“じわり”と普及してきた理由のひとつに、高円宮様がスマッシュの最中に急死されたことも影響していると思われる。高円宮様は電気ショックが早期に行われれば救命された可能性があるからである。心室細動を起こした場合、電気ショックが1分遅れると救命率が7~9%づつ低下するので、一刻も早く電気ショックが行われることが必要である。AEDは小型であり、携行できるが、現在の機種は1.6~3kgあり、登山時の携行には負担になる重さである。一層の小型軽量化が期待される。
先日、山岳耐久レースに医療班として参加する機会があった。コース開始18時間後に意識不明者が発見されたが、ヘリは悪天候のために飛べなかった。呼吸停止の続報も入ったので、現場に医師3名が急行した。現場到着時、発見者の人工呼吸によって患者の呼吸は不安定ながら再開していた。多数の消防署員による搬送下山が開始されたが、搬送開始45分後、AEDが心室細動を告げた。除細動を行うと、心拍が再開した。傷病者は病院に移送されて回復した。AEDの効果を目の当たりにした1例であった。