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公益社団法人日本山岳会

雪崩と心肺蘇生 728号

雪崩と心肺蘇生

志賀 尚子

雪山シーズンが到来しましたが、先日、立山連峰・浄土山の山頂下130m地点で1名が死亡する雪崩事故がありました。雪崩用電波探知機(ビーコン)を装着しており、約20分後に仲間によって掘り出されたものの、すでに呼吸停止しており、病院へ搬送されましたが死亡されました。死因は窒息と報道されました。

雪崩による死因は、ほとんどが窒息か外傷です、時間が経てば低体温という因子も加わります。窒息がもっとも多く、その場合、呼吸停止していた時間が、救命できるか、さらには後遺症なく回復するかどうかの決め手になります。救命されても、低酸素脳症のため植物状態になってしまう場合もあります。頚椎骨折のような致命的外傷を受けてしまった場合には救命は困難です。

雪崩に埋まっていた時間が長いほど死亡率は高くなるので、一刻も早く遭難者を掘り出すことが必要です。スイスにおける638名の雪崩遭難者のデータでは、雪崩により完全に埋まった場合の生存率は、18分以内に救出された場合は91%ですが、その後は急激に低下し、35分後で34%、130分後で7%です(Bruggerら、2001年)。

救出までの時間に加えて、口・鼻の周囲に空間が残っていたかどうかも生死を分かつポイントになります。発見時、口や鼻に雪がつまっていたら、雪崩発生直後に呼吸停止した可能性が高く、救命の可能性が低いと考えられます。

発見時、呼吸がなければただちに心肺蘇生法を始めます。遭難者が低体温症に陥っていると、呼吸や脈拍が遅くなり、血管が収縮して脈が触れにくくなります。そのような倍には呼吸を通常より長く(30-45秒)観察し、蘇生法が必要かどうか判断します。

発見まで長時間経過してしまった場合には、救命の可能性は非常に低くなります。ただし、ほとんどの場合、低体温になっていますから、いわゆる仮死状態である可能性もあり、死亡の判定は慎重を期さなければなりません。深部体温(直腸温など)13℃で救命された例もあり、体温だけで死亡と判断することは困難です。温めて元の体温に戻しても心拍が再開しないことを確認して、初めて死亡と診断することができます。致命的外傷を受けていたり、窒息後に長時間経過していることが明らかな場合を除いては、蘇生法を施行しながら至急病院へ搬送します。

現場で蘇生に成功した場合、保温しつつ外傷の有無を調べ、病院へ運びます。低体温症では心室細動(致命的不整脈)が誘発されやすいので、意識、呼吸、脈拍のチェックを続けつつ慎重に搬送します。

なお、基本中の基本ですが、事故の負傷者に蘇生法を行う場合、第二の事故が起こらないよう現場の安全確認を忘れてはいけません。

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