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公益社団法人日本山岳会

ただ高所にいるだけで肥満や糖尿病が改善するかもしれない 822号

ただ高所にいるだけで肥満や糖尿病が改善するかもしれない

大野秀樹

高血圧や糖尿病などの生活習慣病の最大の元凶である肥満は、2500 m前後の高所滞在によって改善することが知られてきた。最近、その効果が4週間は持続する、という興味ある報告がなされた(Lippl FJ et al.: Obesity 18: 675, 2010)。すなわち、2650mに1週間、肥満者が運動もせずに滞在するだけで(飲食は自由摂取)、体重が有意に減少し、下山しても少なくとも4週間持続した、というものである(往復とも乗り物を利用し、登山をしていない)。拡張期血圧が低下し、逆に運動能力は亢進するというポジティブ効果を伴うことも示された。これらの変化に急性高山病が関与していないことは証明できるが、そのメカニズムはまだわかっていない。基礎代謝率の亢進は一部関係していそうである。

 加えて、正常体重者も肥満者も、2400 mに3日間滞在するだけで耐糖能が改善することが明らかにされている(Lee W-C et al.: High Alt Med Biol 4: 81, 2003)。つまり、高所にただいるだけで肥満に端を発する(だろう)高血圧や糖尿病を含む生活習慣病が改善することが示唆された。まさに、高所環境は天然薬物である。わが国でも、富士山5合目(吉田口で2305 m)、室堂ターミナル(2450 m)など交通機関を利用して到達可能な天然薬物候補がいくつかある。幸い、室堂のそばにはみくりが池温泉(2430 m)がある。ぜひ、追試を行いたいものだ。 

 実際、米国では500 m以下の低地に住むヒトは、3000 m以上に住むヒトよりも男性で5.1倍、女性で3,9倍肥満者が多く、さらに、高度が200 m上がるごとに肥満者の割合が小さくなるという、高度と肥満との間にほぼ直線的な関係があることが報告されている(Voss JD et al.: Int J Obesity, in press)。この事実は、チベット高所やアンデス高所で伝統的な生活を送っているチベット族、インディオにも当てはまるようだ(奥宮清人ら:登山医学31: 207, 2011)。

 人間は動物であり、身体活動は最も自然なパフォーマンスの1つである。現在、「肥満改善には運動」が合い言葉になっている。登山は高所+運動である。肥満や生活習慣病は、先進国のみならず発展途上国でも大きな社会問題になっている。ともに天然薬物といえる2つの要素を有する登山は、余暇やスポーツの面からばかりではなく、予防医学を含む医療の面からも、もっと注目されるべきであろう。

(絵•大野亜実可)

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