マダニが媒介する新たな感染症の発生
秦 和寿
マダニによる新たな感染症の出現です.山岳人にとり厄介なことが一つ増えた事になりますが,古くて新しい問題です.江戸時代の古典籍,倭漢三才図会(寺島良安1712)には壁虱(だに),太仁と記され,添付の図は虫体の脚部が8本と正確です.スエーデンのリンネの分類学は1750年以降ですから,その4-50年前の日本ではすでに正確な形態を認識していたことになります.さらに古く和妙抄(931年)などには八脚子などの記述もあり,樵などはゆっくり引っ張り取る伝統的な除去方を熟知していました.
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生
平成25年の1月に厚生労働省が重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の症例を発表してから11月までに47例の発生があり,そのうち19名の死者が確認されています.死亡率は40%で震撼するような数値です.ウイルス保有のマダニが人体に寄生し感染するもので,媒介種はタカサゴキララマダニで,ほかにフタトゲチマダニなど4種もこのウイルスの遺伝子が検出されています.今のところ発生地域は西日本兵庫以西の13県(鹿児島5例,熊本4,宮崎5,長崎4,佐賀2,愛媛8,高知3,徳島2,山口4,広島5,島根1,岡山2,兵庫2)に限られ東日本からは発生していません.この疾病を予防する最も良い方法はマダニに寄生されないことです.ところが山岳人は藪漕ぎなどで笹藪を縦断することが常であり,哺乳動物が生息する山間部で寄生されます.この疾病の年齢が判明している42例のうち60歳以上が85%をしめています.このことは高齢化する山岳会にも無視できない状況です.高齢者は免疫力が落ちる事と関連があるかもしれません.
マダニの除去
山地でのマダニの予防法は次のとおりです.人工繊維製の長袖長ズボン,さらにスパッツの着用で皮膚を保護します.藪などに入ったあとは,着衣を点検しマダニの有無の点検も大切です.風呂に入ってもマダニは気泡つけ呼吸するので取れません.人体についても直ぐ吸血するわけでなく皮膚の柔らかい部位などを探しまわっています.無理やり引っ張ると口器(口下片)が皮膚に残り,時に結節様の反応を示すことになります.皮膚のマダニを除去するには消毒用アルコール(70%エタノール)やワセリンを十分に塗布し,呼吸器の気門をふさぎ窒息させ,皮膚から離れるよう促しゆっくり取り除きます.エタノールはこのウイルスに対し殺菌作用が知られており有効です.皮膚に発疹や紅斑などの皮膚反応や発熱があった場合は受診します.