打撲・捻挫にはアイシング
浜口欣一
登山をはじめスポーツには,思わぬケガがつきものである.ケガをした時に応急処置をするかしないかで,その後の治癒と結果が大きく異なってくる.
今回は,日常遭遇する打撲・捻挫の応急処置として重要な,アイスイングについて述べてみたい.
ケガをした場合,出血,腫脹,疼痛,血管や神経の損傷を防ぐため,ケガした部分を安静(Rest)にし,腫脹を抑えるために氷や冷水による冷却し(Icing),内出血や腫脹を防ぐために弾性包帯やテーピングで圧迫し(Compression),腫脹を防いだり軽くするためにケガした手足を挙上する(Elevation).これがRICEと呼ばれる応急処置である.この中の一つがアイシング(Icing)である.事例を紹介する.
筆者は何年か振りで新調した山スキーを携えて,上越の東谷山に出かけた.傾斜がきつくなるに従って左足のスキーが頻回にはずれてしまう(ビンディングはTLTでトップが登高モードでなく滑降モードであった事を後で知った).板を履く度に斜面での微妙なバランスを保持するのが大変になり,かなり大腿部に負荷がかかった.頂上間近という場所で,左足のスキーがはずれ,バランスを崩して転倒,10mほど滑落してしまった.ケガはしていないようだが,右大腿部が多少痛かった.登頂を諦め下山することにした.同行者が,スキーを担いて下りるより,履いて滑った方が楽であると言うのでトライしてみた.立木の少ない斜面を滑降してみたが,右足の踏ん張りが効かないのでスキーを脱いで担いで下ることにした.しかし,右足が思うように動かせず,4,5歩あるいては一呼吸しなければならない状態.大分時間がかかってしまったが,何とか駐車場まで戻った.宿に戻って右大腿部をみると,パンパンに腫れて,打ち身による内出血,青アザがみられた.転倒時に立木に衝突したのだ.すぐ冷凍庫に保管してあったアイスノンを密着させて冷やし,タオルで縛って圧迫した.アイスノンの冷たさは全く感じなかった.受傷後4日目に整形外科を受診したところ,X線撮影で大腿骨に骨折がないこととがわかった.特別な治療は不要で,時間の経過を待つしかないとのこと.10日目頃からケガした部位の緊張感は軽くなってきたが,膝を中心に浮腫が出現,やがて下肢に浮腫と出血斑が移動した.3ヵ月経った段階で下肢の浮腫は完全に消失していないが,大腿部打撲に関しては,後遺症はない.初期のアイシングのお陰と判断している.野口いづみ先生は,日本山岳文化学会,日本登山医学会で,黒部上廊下で仲間が足首の捻挫をしたが,テーピングと繰り返される徒渉での沢の水によるアイシングで,予定通りの行動が出来た事例を報告している.
今回,自験例及び報告例は,打撲・捻挫のアイシングの重要性を示していると思われる.アイシングをするか,しないかで,ケガによる後遺症の程度が変わる.RICE,中でもアイシングをを記憶に留めておいて欲しいと思う.
写真は受傷10日目の下肢の足首で,浮腫,漏出性出血が顕著である.