山地のブユ対策
秦 和寿
ブユの被害
春から秋にかけ尾根筋などを歩いているとき、頭の周りを黒っぽいコバエ様の小さな虫が多数飛び回ることがよくあります。この微小な虫はブユです。うっとおしいだけでなく、頭髪の中に入り込んだり、瞼などから吸血します。すこし正確にいうとブユは口器で皮膚を噛み、血をなめるのです。都会の人はブユに刺された経験が少なく、ひどく腫れ上がります。ブユの唾液には高分子化合物があり、アレルギー反応を起こすからです。幸いなことに海外のブユのように感染症をおこすことはありません。
ブユが飛翔するのは3月から11月ぐらいまでで、特に天候が曇りで湿度の高いときに多く発生します。ブユは国内を代表する吸血昆虫で、古来からその対策におわれてきました。奈良平安の時代から、昭和30年代まで杣人や農民は、「燻し」というワラを燻してブユを追い払う防虫具を作成してきました。駆除というより煙で忌避させるのです。
余談ですが、こういったブユをはじめ双翅目(微小なサシバエやキバネクロバエ類)の昆虫は、クマなどの哺乳動物について動きまわっています。山中でクマの糞をみつけ、獣のうなり声が聞こえ、さらに急に微小な昆虫が異常に多くなったとき、すぐそばにクマなどの獣が藪の中にいる可能性があります。ブユ類は哺乳動物の接近を知らせる指標昆虫でもあるということです。
ブユを防ぐ
山の中で多数のブユに遭遇した場合とても困りますが、ブユの防ぎ方は次のとおりです。第一に長袖等の着衣と着帽で皮膚の露出部分を少なくします。ブユが発生する山域では長袖シャツと帽子を忘れてはなりません。さらに首回りなどは手拭いで覆い、状況によりほっかぶりのようなことも効果的です。清潔な手拭いはかさばらないし、ねんざなどの応急処置もできるので有用です。第二にディートとよばれる虫除け剤の使用です。スプレー式などが市販されています。汗で成分が流れたり時間がたつと効果がなくなります。ほかに携帯用の蚊取り線香を腰にぶら下げ燻すこともブユを忌避します。人によっては薄荷入りの飴をなめるなどそれぞれの防虫法があるようです。ほかに刺された時のため虫刺され軟膏もあれば便利です。虫刺され薬は抗ヒスタミンとステロイド剤が主成分で腫れや痒みを減少させます。
山岳人はブユにかぎらず山の害虫に対して自分にあう虫除け方法を持つ必要があると思います。吸血昆虫等に対する基礎知識と防虫具の携行です。具体的には長袖着衣、帽子、布(手拭い)、虫除けスプレー、虫刺され軟膏等、防虫グッズを活用して虫害を防ぎます。