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公益社団法人日本山岳会

手軽な階段昇降、踏み台昇降を大いに利用しょう  第853号

手軽な階段昇降、踏み台昇降を大いに利用しょう

大野秀樹

筋肉の活動様式中、短縮性(筋が短縮しながら力を発揮する)プラス伸張性(筋が伸張されながら力を発揮する)筋活動が、筋力の増加に最も有効である。前者は主に遅筋線維が、後者は主に速筋線維が使われ、それぞれ脂質、糖質が主なエネルギー源になる。登山では、登りが短縮性、下りが伸張性筋活動に相当する。実際、2カ月間、歩いて山(標高差540 m)を登りリフトで下りたグループは脂質代謝が改善し、リフトで登り歩いて山を下りたグループは糖質代謝が改善した(Drexel, H. et al., 2008)。特に、伸張性筋活動は筋の微小損傷・炎症を起こし、2-3日後に遅発性筋肉痛が生じる原因となるが、この微細構造破壊の回復過程において衛星細胞が強く活性化されて筋肥大が生じる。すなわち、伸張性筋活動は、骨格筋肥大や筋力アップに不可欠である。

こうして、両方の筋活動を伴う登山は、筋力トレーニングに最適なスポーツの1つであり、生活習慣病にも有効なことが示唆される。登山のトレーニングは、低山も含めて実際に山に登ることがベストである。しかし、一般の運動トレーニングのように週に何度も登山を行うことは現実的ではない。そこで、手軽に両筋活動が実施できる階段昇降と踏み台昇降を推奨したい。

体重55 kgの25歳の女性が30分間階段昇降した場合、上りだけでは213 kcal、下りだけでは104 kcal、昇降では158 kcalのエネルギーを消費する(日本体育協会スポーツ科学委員会)。上りの消費エネルギーは、軽いジョギングの218 kcalに匹敵する。下りだけでも分速70 m歩行の98 kcalよりも多く、昇降では分速90 m歩行の143 kcalよりも多い。1回30分間、週3回以上実施するのが望ましいが、少なくとも1回20分間以上、週2回は行いたい。ただし、5分、10分と細切れに行っても合計が20分間以上になればよい。この運動によって下半身を強化できるばかりではなく、心肺機能も強化される。階段に手すりがあれば、高齢者でも安全に実施できる。

一方、体重55 kg の20代の女性が30分間踏み台昇降をした場合、141 kcalのエネルギーを消費する。これは階段昇降に近い値だ。20 cmの高さの踏み台に任意の足からのり、両足で立ち、上った足から下り、両足で立ち、次は反対の足からのり・・・を10分間繰り返して1セットとする。少なくとも2セット、できれば3セット、週3回以上行いたい。階段昇降に匹敵する効果が期待できる。

このように、階段・踏み台昇降ともに2カ月以上行うとさまざまな運動効果が得られるが、「実際の登山で役立つのか」は意外にもまだ一定のコンセンサスが得られていないようだ。ぜひ、みなさんの情報に期待したい。

  写真:階段昇降は、1回20分間以上、週2回は行いたい.

委員会

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