筋肉痛、打撲、疲労に対する漢方薬とイミダゾールジペプチドの効能
-特に芍薬甘草湯の無効例に対して-
大野秀樹
本会報第861号の「漢方薬は登山にも役立つ」で、こむら返りのときの芍薬甘草湯(68)の即効性を報告した。一方、少数派ではあるが、芍薬甘草湯の無効例が存在する。ここでは、その代用漢方薬を紹介するとともに、打撲に対する漢方薬と筋肉痛や疲労の予防効果を有するイミダゾールジペプチド(イミダ)も紹介したい。
○疎経活血湯(53):こむら返りに対して、芍薬甘草湯が無効例で速やかに症状が消失する場合が多い。芍薬、甘草を含む17味から構成されていて、構成生薬数が少ないほど急性期の症状に優れている、という原則に当てはまらず、興味深い(伊藤隆:漢方と最新治療25: 103-109, 2016)。加えて、四物湯(71)も、即効性は芍薬甘草湯よりは劣るが、有効性はほぼ匹敵する。こむら返りは、降圧薬(ARB、カルシウム拮抗薬)、高脂血症治療薬(スタチン)、利尿薬などの副作用で出現する場合があり、注意を要する。
○治打撲一方(89):江戸時代に生まれた、本邦オリジナルの漢方薬である。下肢の打撲や捻挫に対して有効であり、概ね3-4日以内に改善する。高齢者の顔面打撲でも有効であり、3-5日間の服用によって約9割の顔面腫脹に何らかの効果が得られる(吉田哲:脳神経外科と漢方1: 17-22, 2015)。特に、高齢者は登山中に転倒しやすく、必携の漢方薬の1つだ。できる限り早期の服用が望ましい。
○イミダ:アラニンとヒスチジンの2つのアミノ酸からなるジペプチド・カルノシンが代表的である。鳥の胸肉に多く、長距離を何日もかけて連続飛行する渡り鳥のスタミナ源として知られている。それは、イミダゾール基がもつ抗酸化作用によって酸化ストレスの上昇を軽減し、その結果、細胞機能の低下が抑制され、脳に疲労を伝えるTGF-β の増加が小さくなるからだ。TGF-βは、慢性疲労症候群の原因物質とも考えられている。イミダ200 mg/日以上の摂取でかなりの効果が得られる(鶏胸肉100 g にイミダ200 mg 含有)。タフな登山の2-4週間前からの摂取が望ましいが、毎日鶏胸肉を食べるのが困難な人は、サプリメントが入手可能である。さらに、成人男性に200回のスクワット運動をさせ、運動前・後、および翌日から4日間、イミダ2 g を含む鶏胸肉エキスを摂取させたところ、プラセボ(擬似食品)群と比べて遅発性筋肉痛(DOMS)の程度が明らかに小さくなり、筋肉痛の緩和にも有効であることが示唆される(前村公彦・他:環太平洋大学研究紀要1: 83-87, 2008)。
登山と漢方薬は、さらに奥が深そうである。なお、カッコの数字はツムラの番号を示す。