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公益社団法人日本山岳会

新型コロナウィルス感染拡大のなか登山者が留意すること      橋本しをり(医療委員会)

2021年9月23日に開催された支部合同会議で、新型コロナウイルス感染症蔓延期における登山について講演いたしましたのでその概要を記載いたします。

最初に新型コロナウイルス感染症について、発生経過、臨床像、伝播様式、変異株問題などを紹介しました。伝播は飛沫感染と接触感染により、換気が悪いと咳やくしゃみをしなくても感染が起こります。2021年7月に生じた第5波における感染者数の急激な増加は、感染力の強い変異株デルタ株によるもので、40~50歳代の若年重症患者が急増し、重症化までの期間も短いという特徴がありました。この第5波は全国的に終息に向かっていますが、専門家の試算では年末にかけて第6波が起こる可能性が示されており、安全な登山を行うには適切な対策を継続することが重要です。

対策の基本は、個人レベルでは3密回避、マスクの正しい着用、手洗い励行などで、社会的には人流抑制、ワクチン接種推進、発症後の治療薬開発などがあげられます。安全な登山を行うために、登山者は出発前から行政からの要請に沿った対策を行う必要があり、感染拡大地域での救急医療体制への負荷や地元住民の気持ちを配慮して、エリアの変更や高いリスクの山行を控え、公共交通機関で移動中の行動にも注意することが肝要です。登山時は前述の基本対策(3密回避、マスク着用、手洗い)を行い、登山後には体力の回復に留意し、万が一、新型コロナウイルス感染症に罹患した時には関係機関へ連絡を行います。ワクチン接種については、日本で承認されているワクチンはリスクよりメリットの方が大きいので、一般には受けることが勧められます。

 最近注目されていることに、新型コロナウイルス感染に伴う自粛生活による筋肉量の低下(サルコペニア)があります。自粛が6ヶ月を超えると2型糖尿病の男性では筋肉量が16%も減少すると報告されています。筋肉量減少の原因としては、外出制限・在宅勤務、旅行制限などのライフスタイルの変化の結果、身体活動低下、歩行減少、座位時間・TV時間・巣ごもり時間の増加などが考えられます。また、ストレス、不安、睡眠不良や、過食・間食、超加工食品と低タンパク食の食べ過ぎも影響します。さらに、日光を浴びる時間が少くなるとビタミンDの減少などにより筋肉合成が低下し、ストレスによるコルチゾール増加により筋肉の分解が亢進するので、巣籠もり生活はサルコペニアを促進します。従って、新型コロナウイルス感染に伴う自粛生活の結果としてサルコペニアが起こると、慢性的なカロリー過多から肥満をきたし、サルコペニア肥満の状態になります。これは長期的には心血管疾患、糖尿病、骨粗しょう症・骨折、認知症・うつ病のリスクになるので、大きな問題です。

 新型コロナウイルス感染症対策は当面継続されるので、Withコロナ期におけるサルコペニア対策を考える必要があります。身体活動としては、抗重力運動、室内ウオーキング、家事などで体を動かすことが重要です。食生活としては、食事の質を上げて質の良いタンパク食を含んだ食品を摂り、スナックなどの加工されたものではなく非加工食品を摂ること、サプリメントでロイシンなどのアミノ酸を補うこと、魚油(EPA+DHA)やビタミンD3を摂ることなどがあげられます。

 最後に、登山は心身の健康維持・増進に役立つものであり、新型コロナウイルス感染症下での安全な登山について纏めたいと思います。第5波の終息に伴い緊急事態宣言が解除されると、山行にでかける登山者が急増する可能性があります。従って、登山時の新型コロナウイルス感染防止策を引き続き啓発することが必要です。また、新型コロナウイルス感染症による山行環境やライフスタイル(巣ごもり)の変容による体力低下などの制約はありますが、感染対策と無理のない計画によりWithコロナ登山を展開していく重要性を強調して講演を終えました。

 なお、会報「山」2020年6月号に野口氏が「コロナ禍と日帰り登山の注意」について投稿されているので、ぜひ参照されたい。また、日本山岳会のホームページには、山を愛する全ての方々、登山者、山小屋関係者の皆様へのメッセージがあり、参考になるだろう。

http://www.jsmmed.org/corona.html

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