コロナ禍のために「まん延防止等重点措置」は18都道府県で3月21日まで延長という、重苦しい中で春を迎えることとなった。オミクロン株という感染力が強いコロナウイルスのために、春の山へ行くことに後ろめたい気持ちを感じてしまう。しかし、混雑していない交通手段を使い、空気のきれいな、登山者の少ない山に出かけることは、心身の健康にとって良いことと思う。 ドイツに「気候性地形療法」という予防医学と健康増進のための学問分野がある。「気候性地形療法」とは聞きなれない言葉かもしれないが、運動前後の心拍数を計測して運動強度をコントロールしたり、体温や乳酸値を測定して運動処方を行うものだ。主に心臓循環器系のリハビリを目的とし、治療として実施されているとともに、市民の健康づくりに役立てられている。具体的には、医師から処方された運動プログラムで勾配のある場所を歩く。同時に、居住地と異なる気候の土地に触れることで、いつもと別の気候が身体に作用する。野山を歩き、新鮮な空気を吸ってリフレッシュすることが健康維持につながるのだ。こうして心身ともに健康をアップさせるという療法だ。
日本でも地形療法の取組みをしている自治体がある。たとえば蔵王高原がある上山市(山形県)では、ミュンヘン大学が認定したコースに基づいて健康づくりに取組んでいる。つまり、「冷気と風」、「太陽光線」などの気候要素を活用し、森や山の傾斜地を歩くことで持久力を強化し、運動効果を高めるようにプログラムを組んでいる。基準は週に3~4回、歩行時間は20~40分で、歩行中「やや冷える」と感じるよう衣服を調整する。細かい数値としては、運動強度は最大酸素摂取量の70%、乳酸値2~4mmol/l、1分間の心拍数については180-年齢(普段運動してない人は160-年齢)だが、血圧降下剤を服用している方は心拍数を10~20%低くすることなどを定めている。循環器系の疾患や糖尿病の人などは、事前に運動可能かどうかを主治医に確認することになっている。国内では上山市以外に、所沢市(埼玉県)、小山町(静岡県)、白川村(岐阜県)などで行われている。コロナ禍が一段落すればさらに広がっていくと思われる。希望者はそれぞれの自治体に問い合わせするとよい。
山歩きは、筋肉を使うこと以外にも心身の緊張をほぐす作用がある。特に春は様々な野草が芽吹きはじめる季節だ。新緑や野草、花々に感動したり、癒しを感じたら、コロナ禍で行動制限されていた緊張がほぐれ、様々なストレスが解消されるだろう。その結果、血流がアップし、脳の機能調整がされ、健康増進につながるだろう。山歩きは地形療法に通じると筆者は考えている。新緑のパワーを受けながら、ホッとひと息してみませんか?