スポーツドクター受診のお勧め
浜口欣一
俗に「医者を選ぶのも寿命の内」と言いますが,山登りをする人が身体に支障が生じたらどうしたら良いでしょうか.スポーツをしないドクターを受診すれば,「山登りは禁止,またはほどほどに」と言われかねません.山登りを趣味とする方にとっては先が暗くなるばかりです.膝が痛い,腰が痛いという事で普通の整形外科を受診すれば,原因の一つとなる「山登り」は止めるように忠告されるでしょう.しかし,山登りを趣味とする筆者の先輩整形外科医,長尾先生や大森先生に相談し,それなりのアドバイを頂き,その後山登りを楽しんでいる日本山岳会員が多い事でしょう.ここにスポーツドクター(日本体育協会,日本整形外科学会,日本医師会の各認定コースの修了者に与えられる名称.アスリートからスポーツ愛好者のスポーツによる障害を治療する医師)の存在意義があると思います.
筆者はある日突然に目の前が真っ暗になったのをきっかけに,循環器のスポーツドクターである内科医の診察を受けました.検査の結果,早朝高血圧,労作性狭心症という診断で,シグマート(冠動脈拡張),バイアスピリン(血液サラサラ),ブロブレス(血圧低下),リピトール(コレステロール低下)を処方されました.先生の診察を受けて思い当たる節がいくつかありました.登山初日の最初の1ピッチは,胸が苦しく,思うような行動が出来なかったこと.自己診断で,「これが狭心症か」と思っていました(内科医と自分の診断があっていたということでしょうか?).シグマートは心臓を養っている冠状動脈を拡張させる作用があり,副作用として頭の血管も拡張させ頭痛が生じます.しかし,筆者は安全に楽しく,仲間に心配をかけずに山行を続けたいと思い前述の内科医に相談して,服薬の仕方を工夫しました.つまり,1日3回の服用を1回とし,3000m級の登山の場合には入山3日前から1日3回服用というようにしました.服用開始4年間ぐらいは入山日に胸に違和感を生じていましたが,いつの間にかその症状はなくなっていました.最近の検査では特に異常な点は指摘されていません.冠状動脈の狭窄部位周辺にバイパスができたものと考えられます.最近は最初の1ピッチ後の同行者の挨拶が「大丈夫ですか?」から,「調子が良さそうですね」に変わりました.循環器のスポーツドクターを受診しなければ,「登山は禁止」という事になっていたでしょう.
医療委員会には各方面の専門家がおります.登山に当たって身体的なご相談がある方はご連絡ください.お役にたてればと考えております.