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公益社団法人日本山岳会

最近の初期う蝕治療の考えと山岳環境 826号

最近の初期う蝕治療の考えと山岳環境

藤枝和夫

このコラムは「登山中の歯磨きはどうしたらよいか」(55)の続編で、的を「山行中の口腔衛生とブラッシング効果」に絞ったものです。1991年9月にイタリヤ・オーストリア国境のエッツタールで発見された、アイスマンとして知られる遺体「エッツイ」の口の中の状態を調べたチュリッヒ大学研究チームの記事から、不衛生な口の中で何が起ったのかを紹介します。

「エッツイ」は、イタリアの南チロル考古学博物館に保存されています。最近まで検死解剖は禁止されていましたが、2012年に初めて解凍・解剖され、149点ものサンプルが採取されました。その模様が2013年3月、「NHKスペシャル完全解凍!アイスマン~5000年前の男は語る~」で放送されたので、ご覧になった方も多いでしょう。

 この遺体は「推定年齢47歳。喪失歯なし。口腔状態は酷く不衛生」とされ、「炎症による支持組織の吸収」と「摩滅しう蝕が多発した臼歯」は「新石器時代における食物の変化」に基づく影響と考えられています。

 パンとヤギ肉が主体の食生活が「エッツイ」にう蝕を多発させました。5300年前の「エッツイ」に「山行中でも食後のブラッシングを忘れずに」と忠告し、「う蝕と口臭の抑えに効くよ」と歯ブラシと歯磨剤を勧めたら喜ばれるでしょう。それとも、「手近に利用できる柳楊枝が一番。これが山男の心得」と応答するかも知れません。  歯磨剤は研磨剤と発泡剤のほかフッ素などの薬用成分を含み、薬事法で化粧品、医薬部外品、医薬品に分類されています。歯磨剤へのフッ化物配合は、先進国の九割以上で普及しています。このう蝕予防を目的とするフッ化物配合の濃度は、先進国で低く後進諸国では高めです。

 ブラッシングで歯垢を除去しますが、歯垢にはフッ素イオンを貯蔵・放出させる働きもあり、全ての歯垢を除去するのではなく制御する必要があるとの記載もあります(Pitts, N: Brit Dent J. 212,315,2012)。Pittsは、フッ化物配合歯磨剤の恩恵を受けるには過剰な水での洗口は避け、少ない水量で少数回のうがいがフッ化物の消失を防ぐのがポイントだと述べています。

 初期う蝕の治療は、従前の切削修復治療からカリエスマネジメントの考えに移行しています。つまり、初期う蝕は脱灰と再石灰化の均衡が崩れた状態であると考え、歯質保存を第一目的とした非切削治療に向っています。山岳環境でも、再石灰化とう蝕抵抗性のフッ化物を供給する適切なブラッシングが重要となります。

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