メニュー

公益社団法人日本山岳会

講演会「登山を健康増進に生かす」開催

講演会「登山を健康増進に生かす」開催

医療委員会委員 村上和子

医療委員会では10月17日にプラザエフにて、齋藤繁氏(群馬大学)の講演会「登山を健康増進に生かす-コツを伝授する『健康登山塾』を開催してー」を開催した。

『健康登山塾』とは、群馬支部が行っている登山教室で、登山を健康維持に結び付けること、中高年の山岳事故を防止することを目的としたものである。塾長は齋藤繁氏で、募集人数は定員を上回って抽選になってしまうほど人気があるとのこと。医療委員会では、登山を健康に生かすというテーマで、登山塾の紹介を含めて、講演会を企画した。

講演は多方面からの切り口で、登山が引き起こす生理現象の物理的説明から始まり、その対処や安全のための心がけなどを理論的に講義された。中高年の遭難の特徴は転倒などによる骨格筋系の障害、既住症の悪化、認知症などの原因による路迷い、技術的問題の転倒・滑落、自然環境によるものがあげられる。その回避のためにできるものとし、簡単に行える片足立ちのバランステストが紹介され、参加者が椅子から立って、開眼時と閉眼時のバランスの違いも実感した。山の事故が薄暗くなる頃に多い理由は、視力低下によるバランス感覚の低下が原因の一つであることも頷けた。「アレンのテスト」は手首を抑えて血液の流れの良し悪しを知る簡単な検査法で、これも実地体験した。呼吸法は、「肺をうまく使えば登りが楽になる」とのことで口すぼめ呼吸を推奨された。その医学的背景や口呼吸・鼻呼吸の違い、忍者の呼吸法、無呼吸・二重息吹・水トンの術(水中での丈筒呼吸)などまで広く紹介された。

登山塾は健康増進と登山力のパワーアップを志向する方を対象とし、1回目は赤城山、2回目は榛名山で、各6回登山を実施したという。登山前後と登山中に数回、心拍数や血圧、着地圧などを測定し、健康上の注意事項を意識しながら歩いてもらったという。その結果、血圧変動が小さくなり、着地が丁寧になる参加者が多かったという。動機付けやアドバイスもあり、運動習慣の確立や生活改善が図られ、健康増進につながったと思われるとのことだった。なお、登山塾の詳細は会報「山」884号(2019年1月号)に報告されている。

最後は、坂道の上り下りを健康増進に生かしましょう、登山は生活習慣病を予防できる健康法そのものだがコツと注意が大切という言葉で締めくくられた。齋藤氏の活舌の良い軽妙な語り口に、時間のたつのを忘れるほどだった。

質疑応答は野口いづみ委員長が司会し、内容は講演から医療相談にわたり、活発で、登山と健康に対する熱心さを反映していた。

参加者は51名(女性21名、男性30名)で、アンケートは40名から回収された。回答者(女性16名、男性24名)の平均年齢65.3歳(21~84歳)で、JAC会員と会員外は20名ずつだった。講演会を知ったメディアは、「以前の医療委員会講演会に参加者に送ったメール」(10名)がもっとも多く、以下、「東京多摩支部ML」(8名)、「JAC会報」(7名)、「JACのHP」(5名)、「山と渓谷のWebニュース」(5名)、「口コミ」(4名)、野口のSNS(3名)などだった。評価は、「とても良かった」が33名、「良かった」が7名と好評だった。感想は、科学的、分かりやすく楽しかったなどで、興味深かったテーマは呼吸法(口すぼめ呼吸)、筋肉痛などで、片足立ち、アレンのテストなどの体験学習や、登山塾へ興味を示す者も多かった。他方、話が早すぎた、資料が欲しかったなどの感想もあった。今後の医療委員会に希望するテーマは生活習慣病、高山病などで、さらなる情報発信への期待などもあった。結果を今後の企画に生かしたい。



委員会

pagetop