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公益社団法人日本山岳会

蚊が媒介するデング熱 835号

蚊が媒介するデング熱

秦 和寿

東京中の薬局の店先から虫除け剤(忌避剤)が消えた.代々木公園で発生したデング熱騒ぎのためである.当初,一過性のものかと思われたが,同公園を軸に8月26日から10月8日間でデング熱に感染した者は157名にのぼった.国内では約70年振りの発生である.1942年から1944年に流行が長崎など西日本でおこり,この時は推定20万人が感染したと言われる.

媒介蚊2種

デング熱は蚊のネッタイシマカ(熱帯縞蚊)が媒介する.この蚊は日本に生息しない.国内で媒介能を有するのはヒトスジシマカ(一筋縞蚊)である.微小ですばやい黒い蚊で,中胸背板に1本の白い筋があることからこの名がついた.自宅の庭で刺されるのはこの藪蚊で,昼間からしつこく人を刺す.

今回の感染は,海外でデング熱に感染した人が来日し,代々木公園のヒトスジシマカに吸血され,同蚊がデングウイルスを保有し,感染環ができあがった.ヒトスジシマカは1回デングウイルスを保有すると,生涯ウイルスを保持する.同蚊が人を吸血すると,唾液腺にあるウイルスを注入して感染させるが,感染率は必ずしも高くない.また,発症しない不顕性感染も多い.ヒトスジシマカが不顕性感染の人を吸血してもデング熱を発症させない.アカイエカなど他の蚊が吸血しても感染はおきず,犬やネコには感染しない.特定種だけが感染を起こす機序はよくわからない.蚊とウイルスと人との関係は微妙で複雑である.

蚊の吸血を防ぐ

 さて蚊の吸血からどうやって身を守るか.蚊などの昆虫は,人の呼気の炭酸ガス(二酸化炭素)を検知する.外気は通常400PPMだが,人の呼気は40,000PPMの炭酸ガスが含まれるので蚊はすぐ感知する.また白色よりも黒色に誘引される.服の上からも吸血するので完全に防ぎきれない.

感染の恐れがある時は虫除け剤(昆虫忌避剤)を活用する.成分はディート(Diethyltoluamide)である.国内産の市販品は濃度が7-10%程度であり,海外製品の数分の一の濃度で,比較的安全である.直接塗布するので使用を控える人もいるが,注意点は顔や傷口には使わず,大量かつ長期に使用しないこと等があげられる.感染症対策の虫除けとしては第一選択である.他にハッカなど植物由来の天然物系の製品もある.昔ながらの蚊取り線香も復活したようだ.

今回の事が示すように,海外の熱帯地方の登山をするときは消化器系の感染症の他に,マラリアやデング熱など蚊が媒介する感染症も念頭に入れ対策をとる必要がある.

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