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公益社団法人日本山岳会

第2回シンポジウム報告 「寒冷地の雪と温暖地の雪」 1983年10月

1983年(昭和58) 10月29日
渋谷勤労福祉会館
後援:日本雪氷学会、日本気象協会

講師:中村純二、渡辺興亜、山田知充、井上治郎、清水 弘、山田 穣、対馬勝年、中川和道、新田隆三
参加者29名  報告:山462(中村純二) 予稿集:21p 


報告

雪と氷のシンポジウム
寒冷地の雪と暖暖地の雪

日時 昭和58年10月29日13~21時
会場 東京 渋谷勤労福祉会館   
主催 日木山岳会 科学研究委員会
後援 日本雪氷学会・日本気象学会

 科学研究委員会は、昨年の名古屋大学水圏科学研究所における第1回シンポジウム「大いに語ろ・うヒマラヤの自然」に引続き、今年は東京で雪氷学会・気象学会が開かれたのを機会に、第2回シンポジウム「寒冷地の雪と暖候地の雪」を開いた。
 昨年の経験に鑑み、個々の講演に対して、十分討議の時間を設けるとともに、雪崩や氷雪面上の滑落など、登山に直接関係のあるテーマも採り上げ、山と登山の科学について理解を深めて頂く一助とした。より詳しい内容はシンポジウム予稿集に記されており、残部は一部500円で頒布中なので、関心のある方は申し出られたい。
 なお山田知充氏は御不幸のため帰札されたので、講演3は同氏のスライドなどを用い、渡辺興亜会員が代読した。
(出席者)佐々保雄、金坂一郎、松田雄一、荻原賢司、遠藤光男、 木名瀬亘、中村あや、市川義輝、飯田肇、高原浩志、武中誠、渡 辺興亜、井上治郎、清水弘、山田穣、対馬勝年、新田隆三、中村 純二、中川和道、高遠宏、小西奎二、大森弘一郎、梅野淑子、松 丸秀夫、高橋詞、斎藤かつら、滝口正二、大木淑子、千葉重美、 以上29名

(中村純二)

 1 はじめに

  東大・教養学部 中村純二

 今回の雪と氷のシンポジウムでは、水分を含まず乾いていて、手で握っても固まりにくい寒冷地の雪と、水分を含んでいて重く、固まりやすい暖候地の雪を、メインテーマに取り上げ、両者を対比しながら、降雪から積雪・融雪までの諸過程や、気候・地形との対応、あるいは氷雪によって惹き起こされる諸現象を検討することにした。
 今回講演を快諾された講師の方々、特に今回のシンポジウムの企画から運営まで全面的に協力頂いた渡辺興亜会員に、委員会としてお礼を申し上げる。

 2 地球上の寒冷雪と温暖雪の系列

   名大・水圏研 渡辺興亜

 地球上、高緯度から中緯度まで広がる積雪域は、数日間で雪が消える「降雪域」、冬期間を通じて積雪が地面を覆う「季節積雪域(根雪域)」および年間を通じて消えることのない「永久性積雪域(氷河氷床域)」に分けられるが、これらは緯度・高度のほか、降雪量その他の気象要素や地形の影響も受け、複雑な分布を示す。

 この場合、雪の温度が零度以下零下3度までで水分を含む場合と、雪温がほぼ零下3度以下で乾いている場合とでは、堆積状況から、積雪の変態過程、さらに雪崩の発生機構や形態に至るまで様子が異なるので、区別する必要がある。各地域では、その地理的気候的条件を反映して、これらいずれかの性質が卓越している。

 寒冷な雪の代表は、極地の高所で見られ、全く雪の融解はなく 積雪は時間とともに霜ざらめ化し、積雪層は脆弱になる。ヒマラヤの高所で発達する霜ざらめ層は往々にして雪崩の原因になる。

 温暖雪の典型は、我国日本海沿岸平野部で見られ、同地方ではさらに豪雪という特別な条件を備えている。破壊的な全層雪崩が繰り返し起るほか、湿度を含んだ中間層が滑り面となる特徴的な雪崩の起る所以である。

 3 寒冷地(北海道)の降雪と積雪

   北大・低温研 山田知充

 図は日本海沿岸地方平野部の最寒月である1月の平均気温(黒丸)と、月平均最高最低気温(黒丸に重ねて引いた縦線の上下端)を、緯度に対して画いたもので、緯度の高い北海道では、月最高気温も氷点下になっている。同時に白丸で年間降雪日数も示したが、北海道では冷たく乾いた雪が降り続き、積雪は日数とともに増す。融雪期に入ると積雪量は一進一退し、その後雪解けとなる。
   

 北海道山地では、高度とともに積雪量が増し、気温も低いので積雪量が多く、積雪期間も長い。これらの雪は、風に飛ばされ、吹溜りや雪庇を作るので、積雪形態は複雑である。このような積雪傾向は中部山岳地帯でも見られる。

 4 暖候地(北陸・近畿・山陰)における降積雪

   京大・防災研 井上治郎

 北陸より西の日本海側平野部は、緯度は同程度だが、西に行くほど降雪量が少ない。これは冬の季節風が日本海上を進むとき、韓国からソ連に至る海岸線から日本までの距離に差があり、海上での水分補給量が異なるためである。

 一方内陸部の降雪量は、主に山岳による気流の強制上昇度で決る。近畿・山陰では山が低いため、北陸に比べて降雪量が少なく、紀伊半島や四国の山にも雪を降らせる。山の降雪量は山脈走行が主風に直交するとき最大で、新潟山地は北西風のとき多く、北アルプスでは西風のとき最大となる。

 暖侯地では、数百個の雪の結晶が絡み合った雪片(ぼたん雪)となって降ったり、雪片が部分的に溶けた状態で降るので、着雪を起す。しかも積雪後変態を起しやすく重くなるので、森林被害や家屋の倒壊、交通渋滞などは、却って山陰で多い。重い雪が不定期に豪雪となって降る現象は、世界的にも特異な現象で、今後の観測例の集積が望まれる。

 個々の豪雪では、日本海上の収束雲、すなわち若狭湾・山陰沖などに発生する小低気圧が注目される。また西日本南岸の低気圧は太平洋側の山に大雪をもたらすので、注意を要する。

 5 雪崩についての一般的性質とその寒冷地での特徴

   北大・低温研 清水 弘

1 雪崩分類(日本雪氷学会’65)

分類基準
Ⅰ 発生形態 点発生 面発生
Ⅱ 雪型 乾雪 湿雪
Ⅲ 滑り面位置 表層 全層

 面発生乾雪表層雪崩と面発生湿雪全層雪崩が多い。点発生全層雪崩は事実上存在しない。運動形態としては、①流れ型、②けむり型、③爆風型の3種類がある。

2 国際分類(ICSI ’73)
 各雪崩につき、発生・雪質・滑り面位置だけでなく、運動や堆積状況など9項目について分類記述するもので、雪崩研究資料となる。

3雪崩発生
 積雪の変態により積雪強度が弱くなり、積雪に荷重がかかると発生する。人・動物の行動や、雪庇崩落・風圧・落雪などか発生の引き金となる。融雪期の全層雪崩以外は地形・天候などに左右され、予想は大変困難。

4 雪崩の滑り面(積雪弱層)
 高所や寒冷地の積雪層は、等温的な焼結現象によってしまり雪に変った後、温度勾配に基づく変態により、霜ざらめ雪層となる。積雪内部や底部の霜ざらめ化ないし、小霜ざらめ化も雪崩の滑り面を形成する。融雪期には浸水によリ、底面のぬれざらめ雪層が滑り面となる。表面がクラストして滑り面となる新雪表層雪崩も多い。

 6 暖候地の雪崩について

   国立防災科学センター。
   雪害実験研 山田 穣

 暖候地の雪崩は、降雪期の湿雪化に基づく積雪の弱化によるもので、霜ざらめ雪による寒冷地の雪崩や、浸透水による底面抵抗の減少によって発生する融雪期の全層雪崩とは区別される。

 一般に雪が湿ると、支持力が低下して雪崩になりやすいが、特に豪雪時には駆動力が増大し、大規模な面発生雪崩につながりやすい。逆に高温の全積雪層が、次第に浸透状態さらに水びたし状態を経て、完全にざらめ雪化すると支持力低下型の全層雪崩になることがある。特に我国暖候地では、湿雪中間層の内部凍結によって、ラム硬度の劣化やラム硬度の偏差の増大が生じ、これが滑り面となる特殊な雪崩も見られる。この時雪温は湿雪副層内で零度を示し上下の層より高くなっている。

 暖候地雪崩の特徴は、積雪量の年変動や地域差が大きく、年や地域により異なる雪崩の発生すること、また積雪の変態は水分が多く雪温の高いほど速やか進行するので、降雪期間であるか否かを問わず繰返し発生することである。

 全層雪崩発生率は降雪期には低地で多く、融雪期には山岳地帯に多い。降雪間期の雪崩は例外なく積雪層の部分的浸透状態で発生していることが明らかにされた。

 7 暖かい雪と冷たい雪の物理的性質の違い

  富山大・理学部 対馬勝年

 正確な学術用語ではないが、暖かい雪とは暖候地に降る湿った雪で雪温はほぼ零下3度以上、水分が糊の役目をし、電線樹木に着雪して雪害を起す。冷たい雪とは寒冷地に降る乾いた雪のことで、風に飛ばされて瞬く間にテントを埋めたり、雪庇を作ったりする。

 積雪状態は、冷たい雪は明瞭な成層構造を示すことが多く、時間と共に焼結を起し大きい雪粒に変って行く(しまり雪)。その後地熱の影響などで積雪内部に温度勾配が生ずると霜ざらめ雪となり、結合が弱くなって雪崩を惹き起したりする。暖かい雪では積雪内部に水が浸透するので成層構造が破壊され、凍結による等温変態が進んで強度の弱いざらめ雪となる。

冷たい雪に比べて暖かい雪では氷が融けて凍ればよいので変態は極めて速やかに起り、降雨や気温上昇により、容易に雪崩れる。

 雪には粘性や引張り強度があり、密度の大きいほど、また温度の低いほど大きい。密度0.5以上では楽に歩行でき、物体上の積雪が下の雪とつながると、家屋が倒れたり、樹枝が折れたりする。

 雪には吸音性もあり、厚さ2cmの雪の壁で、音の強さは10分の1になる。音速は、密度0.4のしまり雪で毎秒1kmの程度である。

 8 人体と氷雪面の間の有効摩擦係数

  東大・教養学部 中川和道

 積雪期登山の氷雪面での滑落故は全事故件数の約25%、死者は全事故死者数の約16%に及ぶ(昭和29~50年、長野県警)。これら事故対策の一環として、富土山5合目、谷川岳天神平、中央アルプス千畳敷等で有効摩擦係数μの測定を行なった。有効と断ったのは、滑落時の摩擦力の中に氷雪面のかき分け効果や、接触面の不均一性等含まれているためである。

 測定法には、摩擦力をバネ秤で読みとる方法と、一定距離(たとえば10m)の斜面を滑落する時間を測る方法を併用したが、いずれも誤差は±0.1程度である。

 30°~45°の斜面で実測したところ、ナイロンやこれに防水加工した布地を着用した人体の湯合、μの平均値は0.3、安全ベルトその他突起物を着用した場合は0.5となった。これまでの文献によれば、岩と人体の間のμは0.6、雪と人体0.5、氷と人体0.4との値もあるが、ナイロン地の影響もあってか測定値は小さく出た。斜面は気温零下5~10度の半ば凍った雪面であったが、今後冷たい雪と暖かい雪の差についても実験を試みたい。

 小物体では雪のかきわけ効果が少なくμは0.13~0.2であったが、これからも安全ベルトに相当する突起物の着用は有効と考えられる。

 9 雪崩遭難
   -その傾向と対策-

  林野庁・林業試 新田隆三

 雪崩は融霊期の午後に起りやすいが、氷河雪崩は全く予想できず、日本では特に湿雪がどれだけ降るかに依存するようで、ケ-ススタディが必要である。スイス雪崩研究所や米林野局からの定期刊行物など参考になる。

 統計では雪崩に巻き込まれた場合、10人に1人は死亡。またデブリに埋没すると3人に2人は死亡となっており、死亡率は高い。面発生湿雪全層雪崩は大きな事故につながりやすい。

 雪崩の予想される場所では間隔を開けて歩くと共に、雪崩紐や雪崩トランシーバーの携行が有効である。しかし実際には紐が切れたり、トランシーバーが身体から離れたり、友人を救助した直後再び流されたが、発信に切換えてなかったりの事例が報告されている。

 流された場合、できるだけもがいてデブリ表面に出る努力は有効である。デブリに埋まると体温は一時間につき、3~5度ずつ低下し、心臓部が30°以下になると凍死する。このため埋没後30分で50%が死亡との統計が出ている。掘り起した際、20°以下の手足のマッサージは却って心臓を冷すので、先ず心臓を暖めること。窒息も死因となるので、手で顔の前面に空洞を作る努力も必要であろう。

山462 (1983/12月号)

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