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公益社団法人日本山岳会

第20回講演会報告 「ザイルとの30年を振返る」 1984年6月

1984年(昭和59) 6月1日
山岳会ルーム

石岡繁雄
参加者:20名  報告:山470-1984/8(中川和道)


報告

石岡繁雄氏講演会

 6月1日の第20回講演会に石岡繁雄氏をお招きし、「ザイルとの30年を振り返る」というお話をお聞きした

 氏は、昭和30年、前穂高岳でのナイロンザイル事件以来、①ザイル強度の基準づくり、②安全な確保システムの作成、という二つの目標に向って精力的に努力をつづけてこられた。鈴鹿高専を停年退官後も石岡登山安全研究所を設立され、研究にますます邁進しておられるという。100枚近いスライドと9枚の貼りビラを駆使して30年間の研究成果の一部を報告されたが、説得力あふれる内容で、氏の静かな口調とは対照的に、迫力満点の講演会となった。

 氏はまず、前穂東壁での事故、消防出初式(昭51、東海市)での事故、タンカーの120ミリザイルの切断事故(昭57)を事例として詳しく考察しながら、撚りザイルの切断機構として、縦傷切断がとくに重要な意義を持つことを具体的に説明された。氏はつぎに、11ミリ編みザイルの無ショック切断(昭55、北岳バットレス、傍点は筆者の表現)を橋渡しに、講演の論点を現在のザイルヘと一気に移し、せん断力に弱いのが現在のザイルであり、それを用いる現在の確保システムに致命的欠陥があることを強調された。

 氏は、この欠陥を、せん断力に強く、近年注目を浴びているケブラーザイルを用い、トップが自動制動器を持つことで解決するという立場をとる。氏は、ケブラーザイルの特性に関する実験結果を詳細に報告し、現在開発中の自動制動確保器の現状と課題を詳しく話された。

 全体として素晴しいお話であったが、科学研究委員のひとりとして氏のお話しを一点だけ補足させていただく。それは、撚りザイルの縦傷切断の現代的意義についてである。

 大規模な遠征隊では、ダンラインロープや漁業用ザイルなど安価なザイルが固定ザイルとして用いられるが、その切断事故が何度か起きている(昭53年ハチンダール・キッシュなど)。氏によれば、これらの事故はほぼ間違いなく、撚りザイルの縦傷切断であろうという。氏の講演に参加された方々が、自分の後輩や知人が遠征に出かけることを耳にされたら、是非忠告してあげて欲しい。ナイロンザイル事件は決して過去のことではなく、今まさに君の身の上に起きっっあるのだ、と。

出席者 川喜田二郎、金坂一郎、神崎忠男、松田雄一、入澤郁夫、継松久美男、高澤英雄、山口道弘、遠田栄、近藤和美、三谷英三、高橋詞、中村純二、高遠宏、小西奎二、斉藤桂、千葉重美、梅野淑子、松丸秀夫、中川和道、以上20名

(中川和道)

山470(1984/8月号)

委員会

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