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公益社団法人日本山岳会

第3回シンポジウム報告 「ヒマラヤのエコロジー」 1984年10月

1984年(昭和59) 10月27日(土) 
渋谷勤労福祉会館
共催:日本ネパール協会講師:
川喜多二郎 中島暢太郎、小野有五、金井弘夫、春田俊郎、高遠宏、渡辺兵力
参加者:20名  報告:山476-1985/2(高橋 詢) 予稿集:23P


報告

 本年度(第3回シンポジウム)は右の標題で行なった。本年はパネル方式で行ない、世話人に川喜田二郎会員をお願いした。講師パネリストとしては、川喜田二郎、小野有五、中島暢太郎、金井弘夫高遠宏、春田俊郎、滝口正三、渡辺兵力の諸氏(パネル第1回発言順)。なお9月8日に川喜田、渡辺(桂)、中島、瀧口、高遠の諸氏による予備討論が行なわれた。

この予備討論を基礎に、川喜田氏司会のもとに全パネラーに短い話をして頂き、それをもとに討論が行なわれた。パネル方式のためシンポジウムの要約は困難であるが、予稿集をもとに概要を述べておく。

川喜田二郎氏 ヒマラヤ地域についてのエコロジー的観点からの基礎診断作業が必要だが、新しい調査法、技術、着眼点などについての検討、環境保全と開発との関係の問題点を明らかにしたい。

小野有五氏 「ヒマラヤの地形、地質、生態系」の関係を要約、グレートヒマラヤ、レッサーヒマラヤ、インド平原の地形的三区分とそれに対応した生態系との関係について述べられた。

中島暢太郎氏 「ヒマラヤのエコロジー」と気象、気候の立場から述べられた。北側の大陸性気候と南側の海洋性気候をヒマラヤが分けていること。偏西風の南北方向の季節変動、モンスーンの季節変動がヒマラヤ周辺の規則的気象変動と異常な気候変動を生ずること。
ヒマラヤ周辺の降水量変動率は日本付近より大きい。

 気候と住民の生活との関係については山中と周辺との区別があること、雨季と乾季の差、極寒季と温暖季の差が大きいことが生活のリズムに影響する。ヒマラヤ山系の存在はモンスーン時の雨雪、冬の季節風による雪を増大させ、ヒマラヤ周辺乾燥域にまで、川や地下水として安定な水資源を供給している一方、洪水による気象災害の原因ともなっている。ヒマラヤ域の豊富な水資源は自然エネルギー開発に大きな可能性をもつ。

金井弘夫氏 「地彼の回復」、異なった生活・習慣をもつ人々が互いに理解し共存し合うためには、一方の基準、考え方を他におしつけないことが大切である。人間はこの間まで地球の資源は無限であるとしてものごとを考えてきた。最近になって、それが有限であることに気がついた。熱帯における森林の減少やヒマラヤの荒廃を、そこに住まない人々が深刻な問題として議論するのは、それが地球規模の影響をもつことを察知しているからで、われわれのエネルギー消費か大きくなりすぎたため、この事態を招いたという反省がまず必要である。ヒマラヤの荒廃の直接の原因は人口増加である。耕地は増加したが、再利用されない裸地もまた増加し、地被の回復が行なわれず、これが土地崩壊の原因となっている。山地荒廃の当面の対策は地彼の回復である。この対策には木を植えることになるが、いわゆる「植林」が適当かどうか一考を要する。生長が速く、農民が直接利用する飼料、燃料などに役立つ樹種を選定する必要がある(はんの木など)。樹木の生長保護のため、住民の理解のもとに放歌の禁止地区を設けることも必要である。

春田俊郎氏 「カトマンズ周辺の森とチョウと人」、約50年前、F.M.Bailyがカトマンズ周辺の山、森林の状況、2百種のチョウの調査をしている。1963年、春田が調査した時は東のMahedeo.Pohkariには森らしいものはなくなっていた。
50年前、多数生息していたテングアゲハは1匹もみられなかった。次にSheopuri山の破壊が進んでいる。ここには僅かながらテングアゲハが生息している。ここは貯水池の保全のため政府によって保護委員会がつくられている。Nagarijung山は昔からのRoyaI Forestで、最もよく保護されている。Pulchowki山は最近採石揚がつくられ、鉱山の採鉱も始まろうとしている。カトマンズ盆地は川が一本、しかも、水源まで1.5キロメートルしかない。カトマンズの水問題は深刻である。

高遠宏氏 「ネパールの土壌侵蝕」 人口圧のため森林の減少が年率1.7%で進んでいる。反すう家畜が1560万頭、人口より多い。この家畜飼料源をどこに求めるか大問題で、飼料畑用耕地はない。雨期は草地、飼料木などで充足、乾期か問題である。
 ネパールの四大河川により運び去られる土壌2.4億立方メートル。それで失われる窒素、リン、カリの肥料要素は34万トンと推算されている。
 またヒマラヤ山系北側、中国チベットの土壌利用、保全などについて中国科学院の資料による紹介があった。

滝口正三氏 「ヒマラヤの自然保護」、ネパールの自然保護活動、国際自然保護連合の「世界保全戦略」の指針、実施要旨の紹介があった。

渡辺兵力氏 社会科学者の立場からのこのシンポジウムについてのコメントがなされた。今回のパネルは自然科学、技術論的問題に比重がかかり、社会科学、文化論的問題意識が不十分である。JAC科学研究委員会としてどういう立場でこの問題を討論し、研究するのがよいか、検討する必要がある。ヒマラヤ地域の荒廃化は登山活動にとっても深刻な問題である。

 なお基礎用語概念についての提案をしたい。「地域生態系」、ある「地域」に「生活」している住民とその環境との関係を一つの系としてとらえるときの思考の枠組を「地域生態系」という。

 以上は予稿集からの私の多分に主観の入った要約であるが、パネル討論としていろいろの問題が取り上げられた。思いつくままその2、3をしるすと、ネパールとブータンのエコロジー的観点からの相違と共通点、生態系の保全と開発、観光との関係をどうとらえるか。環境保全に積極的に役立つ開発もあるのではないか。さらに技術的な問題としてローカルガイド組合を育てる必要があること、登山隊やトレッカーの報告には最少限度、「いつ」と「どこ」の記載を必らずして欲しいこと、エコロジー的観察を依頼するための手引書のようなものを考えたらどうかなどか指摘された。

 科学研究委員会としてのPR不足で参加者の数が少なかったことは残念で、長時間熱心に討論をして下さったパネリストの方々にも申訳けなかったが、シンポジウムの内容は充実したものであったと考えている。なお当日配布した予稿集の残部がありますので、ご希望の方は日本山岳会科学研究委員会宛740円(送料込)を添えてお申込み下さい。また当日の発言はテープに収録、川喜田二郎会員が保管されている。

出席者 パネリスト8名(前出)及び 五百沢智也、遠藤京子、松田雄一、桐生律枝、中村あや、中村純二、斎藤かっら、千葉重美、梅野淑子、大木淑子、小西奎二、高橋詢

(高橋詢)

山476 (1985/2月号)

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