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公益社団法人日本山岳会

談話会報告 「登山の行動科学・発想」「登山の行動科学・遭難のシミュレーション」 1988年3月

◆談話会
「登山の行動科学・発想」
「登山の行動科学・遭難のシミュレーション」
1988年(昭和63)3月25日

山岳会ルーム  

千葉重美
小山内正夫
参加者:  報告:山518(千葉重美、小山内正夫)


報告

 当委員会で行なった談話会の内容は、本年2月18日が「東席アジアの薬草」(山口一孝氏)、3月25日が 「登山の行動科学・発想」(千葉重美氏)、「登山の行動科学・遭難のシミュレーション」(小山内正夫氏)、4月16日が「山の航空写真あれこれ」(大森弘一郎氏)で、それぞれルームにおいて開かれた。講演要旨は次のとおり。

 登山の行動科学・発想 千葉重美

 今日のように、安寧と豊熟の世の中にあって登山も、自我の発露にたった自己実現型の登山になってきている。
斯かる次代に立って考えてみれば、過日の登山は、人間の自然に対しその苦難の限りを尽くしての初登頂と、その陰に潜む遭難の歴史であったとみても過言ではない。しかし、これは、登山の宿命ととられるかも知れないが、本来、登山の本質は、山を愛するものが目的とする山の頂にたち下山したことによって完結する人間のみがとる行為であって、その頂に対しての価値評価や、その行為の選択手段は、各人の趣味嗜好による。
*ある老練な登山家は「登山には人間的な価値があり、社会を健全化させる」との言を遺しているが、登山の社会生産性を論ずるまでに至っていない。
 心の偏執の時代にあって、人が自然と社会の狭間の中で飽くなき葛藤を求めていく、登山の中での能率行動こそが、登山は本来、社会生産性に寄与する。

 かかる仮説から、登山の行動科学的な視点から、登山者の、個人、集団を問わず、人間工学的なアプローチは、ややもすると管理登山になりつつる傾向に警鐘を与えつつ、登山界に対して、新たな認識を持たせ、人間と社会の狭間にあって生産単位を確認させる。
* 西堀栄三郎氏の87年JAC年次晩餐会での発言。

(千葉重美)

● 登山の行動科学・遭難のシミュレーション 小山内正夫

 海難、航空、原子力等の大型事故はその発生防止のため徹底究明が加えられるが、山岳遭難はその特殊性もあって、裁判のケースを除いて、概略の表面的考察に流れ、叙情的追悼文で終ることが多い。この点、遭難をシミュレーション化して、その解析を通じて科学的な処方箋を体系的に得たいと考え、その手始めに登山行動全体の分析を狙って、如何なる手法が有効かを調べ上げてみた。すなわち、登山を計画準備、行動展開、緊急時意思決定、救難対応の4ブロックに試験的に分類し、夫々の特性を整理した上で、現在自然、、人文、社会の各科学面と理工学の諸分野で実用に供されている技法の中で、有望なものを選択した。

 内訳は、人間工学(除心理学、医学)グラフ理論、ゲーム理論、あるいは工学、意思決定理論、システム工学、知識工学(除人工知能)、カタストロフィ理論、安全工学-となるが、この中、後半の4分野に関連する解析手法に注目した。しかし、これも今直ちに即戦力として威力を発揮することは到底無理で、今後チームを編成して実用化のための諸作業(特に入力データの整備の継続)が不可欠である。以後は機会を得て、続報としてシステム工学応用例、知識工学解析報告書等を提出し、会員諸賢の批判を仰ぐこととしたい。

(小山内正夫)

山518 (1988/8月号)

委員会

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