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公益社団法人日本山岳会

談話会報告 「山の航空写真あれこれ」 1988年4月

◆談話会「山の航空写真あれこれ」
1988年(昭和63)4月15日(金)

山岳会ルーム

大森弘一郎
参加者:  報告:山518(大森弘一郎)


報告

 当委員会で行なった談話会の内容は、本年2月18日が「東席アジアの薬草」(山口一孝氏)、3月25日が 「登山の行動科学・発想」(千葉重美氏)、「登山の行動科学・遭難のシミュレーション」(小山内正夫氏)、4月16日が「山の航空写真あれこれ」(大森弘一郎氏)で、それぞれルームにおいて開かれた。講演要旨は次のとおり。

● 山の航空写真あれこれ             大森弘一郎

 「クウサツ」には、未知の山に登るのに〝役立てる〟空からの偵察としての「空察」と、山を歩かずに〝楽しむ〟「空撮」がある。また飛ぶということには、山登りにも参考になる多くの〝教えられる〟ものがある。

 〝役立てる〟―――高速で移動する物の中から見るため、写すことが、多くの情報を得るのに有効。地上から見えない角度からも地形を見られる。横に移動することを利用して、同じ画面を数枚撮れば(対象物までの距離の1/40~1/200の移動量で)実体視が可能である。近寄れない場合(例・・アマダブラムから南壁)は望遠レンズと高速シャッターの組み合わせが役立つ。役立つ反面誤認があり得る。凹凸の大きさ、見えない影の部分など、思い込むと仲々なおらない。

 この目的の場合は、影の出来ない時間帯を選ぶのがよい。登る前に山が良くわかることは、一面、登山の楽しみの一部をうばうこともあるし、またその反面として登れない者のウサバラシにはなる。
 撮影のコツは、移動の速度につれてあわてないこと。初歩的ミスをおこしやすいので、他の乗り物の中で練習するとよい。

〝楽しむ〟―――昔登った懐かしい山に寸暇で再会できることは楽しい。数日、数十日の山行でやっと会える美しい姿に、数時間で会うことが出来る。上手に移動すれば、広い範囲にある美しい山を次々におとずれることが出来る。又、地上から見ることの出来ない角度からの姿の中に、自分しか知らない姿を発見することがある。この時は新しい自分だけの山を創造しているような気持ちになる。

 また自分で操縦してそれをさがすことが、多少なりとも代理登山の満足になる。しかし、止って、手でふれることの出来ないのが何とも残念。

〝教えられる〟―――登山と操縦とは似た所がある。危険と常に近接していること、天候等自然変化の中を上手に動くこと、自分の位置を常に掴んでいること。判断の重要性、リーダー(機長)責任等。一方、常に移動しており、持ち時間が限られ、判断は瞬時でなければならない点は異なる。

 この教育法は良く作られている。経験量の内容別数値化(時間)、力量の判断、力量に合わせた行動の指導、危険を体験させることとパニックから回復訓練等良く出来ている。それでもエラー(事故)がある。

 遭難(事故)の美化は少ない。高度順化の考えはない。高空での低酸素については、判断力の低下を問題とし、この危険を良く教育し、体験させている。事故は全て失敗である。この常識から見ると「死んだが登頂成功」はあり得ない。「登頂したが死んで失敗」となるべきである。

(大森弘一郎)

山518 (1988/8月号)

委員会

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