■シンポジウム「山岳地域における自然エネルギー利用」
1990年(平成2) 5月12日(土)
青山学院大学総合研究所、会議室
講師:鳥居 亮、今田英雄、原田茂、原田恒久、本多潤一、貫田宗男、大蔵喜福、木村茂雄、森 武昭
参加者203名 報告:山549-1991/3(森武昭) 予稿集:46P
報告
平成2年5月12日(土)に東京渋谷の青山学院大学で科学研究委員会主催の「山岳地域における自然エネルギー利用」に関するシンポジウムが開催された。このシンポジウムは、自然エネルギー(風力・太陽光・ミニ水力など)を利用した発電システムの意義を広く理解してもらうために開催されたもので、日頃から自然環境問題に関心をもたれている皇太子殿下も一会員として出席され、熱心に講師の話をお聞きになった。当日は、会員の他に、山小屋関係者やエネルギー問題に関心のある方、報道関係者など203名が出席した。
シンポジウムは午後1時30分から4時間にわたって開催され、筆者が司会を担当した。最初に主催者を代表して、科学研究委員会の徳久球雄委員長が、出席者へのお礼とこのシンポジウムの意義について挨拶された。次に、当日の講師9名が紹介され、本題に入った。
最初に、会員の鳥居亮氏が全体像を理解してもらうために総論として概略次のような講演を行った。
(1)自然エネルギー利用発電は、自然と調和した枯渇することのないクリーンエネルギーであることが最大の長所であり、燃料の運搬が不要となることもあって山小屋の電源として極めて有効である。
(2)山小屋における自然エネルギー利用の実用化は、ここ2,3年で急速に普及し、現在63ヶ所で採用され、その中心は太陽光の50ヶ所である。
(3)山小屋では、気象条件等を考慮して複数の自然エネルギー源を用いたハイブリッドシステムが有効である。
(4)ミニ水力発電は、水量と落差が確保できれば、常時電力が得られることが大きな魅力となっている。
続いて、山小屋関係者として穂高岳山荘経営主の今田英雄氏が自然エネルギーを利用したお蔭で、ヘリで空輸するドラムカンの量が5分の1以下に減ったなどの実績を報告した。
次に本沢温泉グループ代表の原田茂氏が八ヶ岳の三つの小屋での実績を説明し、自然エネルギー利用が大きな威力を発揮していることを紹介した。
さらにメーカーから、昭和シェル石油の原田恒久氏が国からの補助を得て白馬山荘で実施中の大規模実用化研究(太陽光が約70キロワット、風力1キロワット)の経過と今後の課題について、京セラの本多潤一氏が山小屋と同じような条件にある諸施設における太陽電池のいろいろな応用例の紹介を行った。
中間での活発な質疑応答と休憩の後、会員の大貫敏史氏が、三国友好チョモランマ/サガルマータ登山隊で無線通信の電源として太陽電池を使用し、大いに役立った旨を説明した。次に、会員の貫田宗男氏が主にカモシカ同人隊がヒマラヤで使用した例を紹介した。続いて、南極での風力発電の実用化を目指している木村茂雄氏から、ブリザードや雪などの悪気象条件による影響にいろいろな配慮を払った試作機で、現在までに風洞実験や低温実験などを行ない、平成2年11月に積み込む南極風車の話が紹介された(注・この南極風車は、平成3年1月に設置され、稼働し姶めた旨、現地から報告されている)。
最後に筆者が、まとめとして、主に今後の課題として、立地条件に適したシステム設計の重要性などの技術的課題を指摘した。
このシンポジウムを通して、特に目立った点を要約すると次の通りである。
①さらに太陽電池を普及させるためには、低価格化が必要である。そのた めには、一般家庭で実用化し余剰電力を電力会社が買い取るような制度 の採用が必要である。
②バッテリーなどの付帯設備の小型化と低価格化が必要である。特に、登 山隊で使用する場合には、この点が最大の難点となっている。
③自然環境との調和に関する環境行政や電気事業法の適用など法律上の手 続きで行政府の理解が得られるようにさらに努力していく必要がある。
地球環境問題などが指摘される中で、一向に進まない自然エネルギー利用が、山小屋では急速に普及しつつある現状で開かれたためか、山小屋関係者のみならずむしろエネルギー問題そのものに関心のある出席者から多くの質問や意見が出されたのが注目された。
[筆者注]筆者等の手違いにより、昨年5月に開催されたシンポジウムの報告が大変遅くなってしまったことをお詫びいたします、なお、当日の予稿集がまだ若平残っていますので、ご希望の方は、JAC事務局内、科学研究委員会あてに、675円(送料込)を同封して申し込んで下さい。
山562 (1992/3月号)