メニュー

公益社団法人日本山岳会

夏山気象入門講座1報告 「夏山での雷災防止」 1997年5月

夏山気象入門講座1「夏山での雷災防止」
1997年(平成9) 5月15日

山岳会ルーム 

講師:北川信一郎(中央防雷㈱顧問)
参加者17名 報告:山626(北野忠彦)


報告

雷放電と安全対策 

-雷が近づいたら金属を身体から離す?-

 科学委員会主催の連続講座「夏山気象入門」第1回は「夏山での雪災防止」をテ-マに中央防雪株式会社顧問・北川信一郎氏を講師にお迎えし、本会ルームに17名が参集して開催された。
 以下は北川氏から寄せられたレジメの要旨である。

1、雷雲はどのような雲か?

 空気は絶縁体で電気を流さないが、1センチメートルあたり5000ボルトの電圧を加えると、絶縁が破壊され火花放電が起き、瞬間的に電流が流れる。自然が起こす火花放電が雷放電で、雷放電を起こす雲を雷雲という。

 雲中では、雲粒を形成する水晶にプラス、重力で落下するアラレにマイナスの電荷が分離される。アラレは、大気中のマイナス10~30度Cの温度層で形成されるので、この温度層(夏は高度約8キロメートル、冬は約5キロメートル)より高く成長する活動の激しい対流雲が、雷雲となる

 雲中の正負電荷の放電は雲放電と呼ばれ、雲の下部に分離された電荷と大地との間の放電が落雷である。

2、雷はどこに落ちるか?

 雷は高いものに落ちるといわれるが、実際は、海面、河原、田圃、運動場などところかまわず落ちる。空気の絶総破壊は、雲の電荷中心から大地まで、一瞬に起こるわけではなく、約50マイクロセコンドの間隔をおいて30~50メートルおきに、ステップを踏んで進行し、最後の一飛びが大地に届くと、雷電流が大地に流れ込み、目がくらむ明るい放電路が形成される。

 このステップの進行する先方に高い物体があると、最後のステップがこの高い物体に飛びつく。したがって高い鉄塔や一本杉の先端が落雷を引き込むのは、先端から30~50メートルの範囲に限られる。

3、落雷に対する安全対策

-金属を外しても、少しも安全にはならない。レインコートを被りゴム長靴を履いても雷に撃たれる-
 金属製品、金属片は身に付けたまま避難する。緊急のときはその場で姿勢を低くする。頭より高く傘をさすと、いっそう落雷を受けやすくなる。金属に限らず、長い物体を身体より高く突き出さない注意が必要である。ついで落雷の合間を見て、安全な場所に移る。

4、安全な場所はどこか?

 絶縁物で雷を阻止することはできない。雷電流を大地に流す導体で囲まれた空聞が安全である。
 実際には、自動車(オープンカーは不可)、バス、列車、大型の船舶、コンクリート建築の内部は安全である。通常の木造建築の内部も安全であるが、仮小屋やテントは危険である。屋内では、電灯線、電力線、電話線など外部につながった電線と、これに接続される照明器具、電気器具から1メートル以上離れた空間が安全となる。

 電気器具はスイッチが切ってあっても、他方の線がつながっているから、コンセントから電源ブラッグを抜き取らない限り危険である。電灯線、電話線など外部につながる電線があると、これを伝わって雷の異常電圧が屋外から侵入することがある。
そこで、テレビセット、無線機からは、2メートル以上離れる必要がある。近隣への落雷で、屋外アンテナから雷の異常電圧が侵入するからである。

5、安全な場所が遠いときはどうするか?

 -雷に対する心得
 屋外で、雷雲が近づいたときはどうするか? 周囲に高いものがなければ、その場でできるだけ姿勢を低くする。自転車やバイクからはすぐ降りる。落雷直後の1分間は安全であるから、窪地あるいは高さ4メートル以上の物体をさがす。窪地があればその中で姿勢を低くし、4メートル以上の高い物体があれば、てっぺんを45度以上の角度で見上げ、物体からは2メートル以上離れた位置で姿勢を低くする。樹木のときは、すべての枝・葉先から必ず2メートル以上の距離を取る。4メートルより低い物体には近づかない。

 雷雨注意報が出ているとき、あるいは雷の気配かあるときは、人家から離れた平野、山の頂上、尾根などには出向かないことが大切である。
                              *
 このほか、
雷の電圧=約1億ボルト。
寿命=発達期、成熟期、消減期各々 約15分。
発電能力=15万キロワット(中型 水力発電所1基に相当)。
 などの雷の大きさ、強さなどについての興味深い数字が示された。

 また、人体へ落雷すると、体内に電流が流れ、呼吸と心臓を止めて死亡の原因となる。同時に人体表面での放電「沿面放電」による火傷と電紋を起こすが、軽傷で容易に治癒する。人体が帯びる金属は・「沿面放電」を起こしやすくし、「沿面放電」を強める結果、危険な体内電流は減少する。

 樹木などの下で雨宿りすると、落雷に際して、これらの物体から人体へ二次放電「側撃」が起こり、雷電流の主流が人体に流人するので、これら物体からは2メートル以上離れること。また直撃事故の場合、死亡あるいは重傷は直撃を受けた一人に限られ、周囲の人は軽症あるいは無傷であるなど、いろいろと貴重な話を伺った。

 詳細は日本大気電気学会発行のパンフレット「雷から身を守るには-安全対策Q&A-」を参照のこと。
*申込先〒565 吹田市山田丘2-1 大阪大学工学部電気工学科 河崎善一郎気付 日本大気電気学 会事務局 750円

         (北野忠彦)

山626-1997/7

委員会

pagetop