◆夏山気象入門講座3「天気図と観天望気」
1997年(平成9) 6月5日
山岳会ルーム
講師:城所邦夫(日本気象協会)
参加者11名 報告:山628(城所邦夫)
報告
山における天気判断の三本柱(天気予報を聞く、天気図の作成、観天望気を行う)の一つ、観天望気について説明する。
「観天望気」とは、自然の現象を身で感じたり、目で確認したりして、今後の天気を予測する手段である。
この観天望気とほぼ同様なものに、古くから語り継がれてきた「諺」による天気予測もある。観天望気の要素は、大気現象のほかに動植物の現象もあるが、今回はその中でも最も利用されやすい「雲」を取り上げる。
1、雲形とその種類
雲は千変万化といろいろに変化するが、基本的には十種類の雲に分類されている。まず高さ別に、上層の雲として、巻雲(すじ雲)、巻積雲(うろこ雲)、巻層雲(ひつじ雲)、中層の雲に高層雲(おぼろ雲)、乱層雲(あま雲、ゆき雲)、そして下層の雲として層積雲J(うね雲)、層雲(きり雲)、積雲(わた雲)、積乱雲(雷雲)とに分れ、それぞれの名称や俗称および雲型などの特徴がある。
名称では、上層の雲の頭に「巻」、中層の雲の頭に「高」、下層の雲の頭に「層」や「積」の頭文字がついていること、また各層の雲には、それぞれ「積」や「層」のつく雲があって、「積」は丸みを帯びて輪郭がはっきりし、「層」はベール状や煙状を呈し、輪郭がはっきりしない。そして降水の型は、「積」は俄雨性、「層」は時雨性となる。
2、変化を伴ういろいろな雲
基本的な十種の雲は、そのときの気象条件によって雲型が変化して、いろいろな型になって出現する。代表的な変化雲として、波状雲、レンズ雲、吊し雲、笠雲、くらげ雲、飛行機雲、旗雲、滝雲などがある。その中で、旗雲と滝雲は晴天時に出現しやすく、その他の雲は今後の天気変化(天気の下り坂、天気の急変)を暗示させる雲として注目される。
3、温帯低気圧に伴う雲の変化
日本付近のような温帯地方での低気圧は、ほとんどが不連続線(温暖前線、寒冷前線)を伴い、この不連続線は雲を伴ったり、降水現象を伴っている。このため、これらの不連続線に伴う雲と降水の特徴について述べる。
①縁暖前線に伴う雲と雨
温暖前線は低気圧の中心から進行方向の東または南東方向にのびており、この前線は暖気の勢力が強く、前方の寒域の上を滑り上がって行くような構造を呈し、そのときに層雲状の雲が出現する。基本的には温暖前線の先端では巻雲を伴い、この巻雲は低気圧の中心に向かって近くなると巻層雲へ変化する。そして次第に高層雲となって高度を下げてくると、ついには乱層雲に変化して降水(時雨)を伴うようになる。温暖前線や低気圧が接近してくると、このような雲の変化傾向が生じるので、雲の段階的な変化を追跡することによって、悪天接近を知ることができる。
高い山においては、これらの上・中層の雲の変化とは別に、山麓や山の中腹にかかる雲海の乱れや、モヤがかった現象から次第に層雲や層積雲に変化した後、不安定な上昇気流にのって高度を増してくると本格的な悪天が間近となることが知られている。このように上、下方向から雲に包まれるようになると悪天は確実で、この現象を、覚えやすいように「サンドイッチ型」と名付けて注目する。このサンドイッチ型の実例として、富士山、岩手山、八方尾根、北岳、八ヶ岳などの例を示した。
一方、逆の発想の見方として、このサンドイッチ型にならず、上方または下方のどちらかの条件が満たされないと悪天には至らず、そのときの天気状態ですんでしまう傾向にあるということができる。
②寒冷前線に伴う雲と雨
寒冷前線は低気圧の中心から後ろの西方向または南西方向にのびており、この前線は寒気の勢力が強く、前方の暖域へ潜り込むように侵入し、暖気を急上昇させるために発達した積雲上の雲(積乱雲)を伴って、時には強い俄雨や雷、ヒョウなどを伴い、また、気温や風向きの急変を生じる。この実例として、三ツ峠、谷川岳、榛名山、後立山連峰、甲府盆地などについて紹介した。
*6月5日実施出席者11名
(城所邦夫)