科学委員会は1979年3月、西堀栄三郎氏が山岳会会長の時代に「科学研究委員会」として発足した。『日本山岳会百年史』に中村純二氏が「山の科学と日本山岳会」と題して当時の事情を執筆しておられる。
科学研究委貝会の設立の理由は、それまで他の委員会が独自に行なってきた科学的文献収集、講演会、研究会などを科学研究委員会に一本化して積極的な山の科学の研究を行なう委員会とするという位置づけで立ち上げられた。
そして、①登山者自身による調査と実地体験、②登山を通じての探索の喜びや充実感の獲得、③山の科学の文献の収集、④会員相互の交流の促進、の4項目がとりあえずの目標として設定された。
これまでにマッキンリーの気象観測登山、ミニ水力発電などの実践的な研究を行なった。だが、ラボを持たない日本山岳会にとっては、研究はやはり大学、研究所で行なうべきもので、「科学研究委貝会」の実態は会員に対する知識の普及、啓発が主たる活動であるため、1995年に「科学委員会」と名称を変更して現在に至っている。
現在の科学委員会の定例的活動
シンポジウム
雪崩、山岳通信、登山用具、気象、GPS、食料などのテーマで、識者に依頼して、シンポジウムを精力的に開催してきた。最近のトピックスは「中央分水嶺踏査」であった。この企画によって全国支部の活性化が顕著になったという評価をいただいている。
最近行なったシンポジウムには、「現代登山とGPS」がある。
探索山行
山の植生、塩の道、山岳通信、地質・地形などテーマを定めている。そのテーマに相応しい山について、講師による講演とその山を登る企画も長期にわたって続けられている。
講演会
ルームで開催する講演会は年に2~3回、行なわれている、夏山の気象、マッキンリーの気象、サプリメント、氷河地形、日本の山・世界の山、靴や衣類などの登山用具など多岐にわたっている。
気象観測
森武昭氏が指導する「ミニ水力発電」は、現在、科学委員会の下から離れたが、大蔵喜福氏を中心とする「マッキンリー気象観測」は06年から電源開発㈱の補助金を受けて再び科学委員会の管理下において活動を行なっている。
今後の活動方針
これまでの活動は首都圏中心であり、全国の会員に益するところが少ない点が問題であった。今後の活動方針として、私見ではあるが次のように考えている。
(1)全国の支部から科学委員会の協力委員を選任していただいて、各支部が持っている科学情報を、科学委員会ならびに協力委員からなるITのネットワークに配信していただく。ネットワークに配信することで、全国的な情報の共有ができるものと思われる。
(2)現在は科学委員会だけでテーマを決定しているシンポジウム、探索山行、講演会について、支部から意見を述べていただくことによって、日本山岳会会員が科委員会に期待することを実現することが出来るのではないだろうか。
(3)各支部と協力しつつ、山の科学に関する情報のデータ・ベースを作成する。データ・ペースに取り入れる文献の選択については科学委貝会の力だけで出来るものではない。会員諸氏に広く叡智をお借りしたい。 これは単年度で出来ることではなく、極めて長期的な取り組みを必要とするであろう。
(4)科学委貝会の活動記録を年報のような活字を媒体とした形で残す必要があるのではないかと考えている。
以上のような活動方針によって科学委員会の存在意義を確認し、全国の会員に益する活動の出来る委員会でありたいと願っている。
(箕岡三穂)