◆講演会「土壌微生物の活動に依存する自然の浄化能力」
2002年(平成14) 2月15日
山岳会ルーム
講師:隅田裕明(日大生物資源科学部農芸化学科)
報告:山683(宮津公一)
報告
一昨年末の「登山者の立場から山のトイレ問題を考える」と題するシンポジウムの際のアンケートで、トイレがない場所での排泄マナーに関するセミナー開催への要望が多く奇せられた。 これに応えて、2月15日夜、当会会議室において、日本大学生物資源科学部農芸化学科・隅田裕明先生から「土壌微生物の活動に依存する自然の浄化能力」についてお話をうかがった。
岩石の風化でできた土砂の上で、落ち葉などが微生物で分解されると、腐植層を含む土壌が形成される。その過程(断面図で解説)では微生物・水・空気を含む土壌粒子の構造により、腐植層での吸着・ろ過などの物理的浄化と化学的浄化のほかに、微生物の生物的要因も加わった土壌の浄化機能が働いている。
土壌1グラムに含まれる微生物の薗体数はツンドラ地帯の凍土でも3500メートルの高地でも約1億~10億だが、微生物の活性は温度・水分・酸素濃度に敏感に影響される。分解速度は有機物の種類によって異なり、まず水溶性のもの、次いでタンパク質、脂肪、セルロースと遅くなる。トイレットペーパーは落ち葉と主成分が同じだから分解するが、合成繊維を含むテイッシュペーパーは分解しにくい。有機物が植物の肥料成分に変化する仕組みはじめ、土壌中での物質循環サイクルを通して微生物が自然と人類活動を支えている様子について要領よく説明された。その後、出席者との具体的事例に関する質疑応答が進められた。
それを要約すると、日本は雨量が適当で温度にも極端な差はなく微生物の活動は活発だから、ブナ林のような豊かな樹林帯に限らず、岩場や砂礫地のような植生が見られない場所でなければどこでも、速度に多少の違いはあっても糞尿の分解は進む。同じ場所に繰り返して多量に排泄するような極端なことをしない限り、人間の排泄程度で植生が変化するほど自然は脆弱ではない。
登山者一人ひとりが植生の茂り具合から浄化能力を判断して場所を選び、一ヵ所に集中しないように注意して、汚物や紙が隠れる程度の穴を掘り、風や雨で露出しない程度に土をかぶせて微生物と接触させるように後始末するなど、マナーに従って賢く。”野グソ″したほうが下手に山小屋のトイレに集中するよりも環境保全によい、と理解できるようなお話であった。
糞尿などの分解に要する時間や水場と排泄場所の最低許容距離などの具体的数値を聞きそびれたが、これらの値は条件によって大幅に異なるから、簡明にはお答えをいただけなかったはずだと思う。(日大生物資源科学部農芸化学科)
(宮津 公一)
山683-2002/4