地球温暖化が問題になっている現在、炭酸ガスを放出しない太陽光発電、水力発電、風力発電など、自然エネルギーを利用する意義は極めて大きい。上高地山研の建て替えが決まった時、山研委と科学委を中心に山研の名に相応しい活動が行えないかとの話し合いが行われ、秩父宮記念学術賞を受賞したミニ水力発電の鳥居亮グループが科学委に属していたので、これを実行することに話はまとまった。
1999年発電用の水は善六沢から毎秒5~6リットルを取水していったんサージタンクに溜めた後、下の発電小屋まで全長460メートル、落差52メートルを直径75ミリのパイプ二本で導水、直流24ボルト、出力1KWの横軸ペルトン水車の発電機にかけ、電力をいったん四台の12ボルト蓄電池に溜めた後、山研の照明、地下室の除湿、生ゴミ処理機等に利用した。
当初は取水口のゴミ詰まりや、運転開始前のパイプ内の空気抜きなど、保守も大変だったが、2001年4月からは、森武昭科学委理事を委員長とする「ミニ水力発電運営委員会」が山研内に発足、直径37.5ミリのパイプの頭部側面に直径30ミリの孔数個を開け、頭部全体を金網で包んだもの5本を用いて取水を行ったところ、落葉なども流れ去り、パイプに空気が入ることもなく問題点はすべて解決された。
現在ではデジタル技術を用いて、さらなる有効利用を図るとともに、発電設備の公開や、資料室での展示も行ってい
る。
山岳第九十七年A(2002)より中村純二
ミニ水力発電
ミニ水力発電の意義
二酸化炭素(co2)削減は、わが国が世界に向けた国際公約です
したがって、石油に代わる自然エネルギー利用は非常に重要です。現在、山小屋などでは、生ゴミとし尿の処理対策による環境保全が大きな 課題となっています。この電源に自然エネルギー用いることは、意義深いものがあります。自然エネルギーー利用発電としては、太陽光と風力が一部で用いられていますが、発電量が気象条件に左右される上に、設備の利用効率もよくありません。
自然に流れている水のごく一部をそのまま利用する小規模(ミニ)水力発電は、非常に有効な発電方式です。大型ダムを設け自然を破壊することもなく、常時発電可能ですから照明や、時間のかかる生ゴミ、し尿処理の電源に適しています。
日本山岳会ではミニ水力発電の素晴らしさを、多くの皆さまに理解していただくために、環境庁、森林管理署、長野県、安曇村などのご理解とご協力を得て、上高地に実験設備を作りました。この設備がモデルケースとなって、将来、ミニ水力発電の普及に寄与することを願っています。
ミニ水力発電実験設備の特長
1.研究所上部の善六沢から少量の水(5リットル/秒)を取水し、サージタンクヘ。
2.発電所まで470mを75mmのパイプで導水、落差52m。
3.発電装置はノズル(弁)で流量と落差(発電に役立つ有効落差)を調整して最大の発電電力を求めるだけ。水を汚す油などは使用していない。
4.発電後の水は一部を飲料水に、残りは梓川へ。
5.発電電力は生ゴミの処理や照明に使用。バッテリーで発電電力以上の電気の利用も可能に。
6.発生電力量は太陽光発電の約10kw設備に相当。
経緯
ミニ水力発電は日本山岳会の上高地山岳研究所に、自然エネルギー導入の一貫として、1998年に実行委員会が発足したプロジェクトですが、この計画の発端は、さかのぼること10年前。山岳地帯の山小屋に風力発電などの自然エネルギーを導入し、その研究をされていた、神奈川工科大学(当時は幾徳工業大学)の鳥居 亮教授を中心とする自然エネルギー研究グループが、山岳会の保有する上高地の山岳研究所で、なんらかの自然エネルギーを採用しようとしたことからはじまります。
山岳研究所の建っている場所は、河童橋近くの林間であるため、風力や太陽光発電は適さない。しかし、梓川に流れ込む善六沢が研究所のすぐそばに流れ、実際この水を研究所の飲料に使っており、発電に必要な水量も確保できることから、1991年(平成3年)に日本山岳会の科学委員会と山岳研究所運営委員会の合同で、ミニ水力発電実行委員会(委員長・小倉副会長)が発足し、計画が本格的に動き出しました。
ところが、この地は国立公園内にあり、公的なさまざまな制約があり、なかなか建設の許可が降りずに何年もの間、計画が思うように進まず足踏み状態であったのですが、エネルギー危機がささやかれる中、自然エネルギーが世間で次第に認知されてきたことなどの風が幸いして、一気に許可がおりることになり、急遽冒頭の実行委員会で建設開始に至ったのです。
2000年5月15日に発電装置完工式が関係者を招いて行われ、いよいよ本格的な実験が神奈川工科大学との共同ではじまりました。
概要
この図は、発電システムの概略をイラスト化したものです。
取水口
善六沢は穂高連峰の西穂独標の南面から端を発し、梓川の小梨平に注ぐ小さな沢ですが、山研(JAC山岳研究所のこと)から約500m上流に取水口を設け、ここから約50m下のサージタンク(ドラム缶)に水を受け、ここから3インチ(φ75mm)の導水菅(ポリエチレンパイプ)で、林間を縫うように、山研裏の発電小屋まで引いてきます。この間で落差が約50mとれ、発電機の水車を廻す水流が確保できます。発電小屋手前に分岐を設け、発電しないときは直接放流できるようにし、さらにこの水を山研の生活水に使っています。発電中の水車をくぐった水も同じように使うことができ、まったく水を無駄にしていません。
発電機にはペルトン型水車が並列についており、この水車の羽に水を勢いよく打ちつけ、毎分1400回転を得ます。これによりフル回転状態で約1000Wの電力を得ることができます。電気はご存知のように使わないときでも発電し続けぱなしですから、この電気をいったんバッテリーに蓄えておき、必要に応じてバッテリーから使うことになります。
バッテリーは直流24Vですので、交流100Vにインバーターで変換します。発電小屋にはこれらのシステムが収められており、見学ができるようになっています。また発電小屋のデイスプレイ照明や、山研の展示室の照明は、この電気をつかっています。
当初心配されていた、ゴミつまりの問題も、山研管理人の協力で、何回かの改良を繰り返し、安定した電力が確保されています。
将来的にはこのシステムを山小屋などで使用できるように発電方式の検討や、ごみ処理やトイレの浄化などの環境保全に役立てる使い方を研究していくことになっています。
ミニ水力発電の詳細については JAC会報「山」に掲載されています
No,623(97/4) No,647(99/4) No,657(00/2) No,670(01/3)
送水工事を手伝う神奈川工科大学(共同研究先)の学生達 | サージタンク | 発電小屋 |
清水タンク | 回転しているタービン | 発電装置 |
現在の状況(2010/5)
約10年経過した今、正常に稼動しております。これは、森教授をはじめとした神奈川工科大学の関係者、日本山岳会・山岳研究所運営委員会、ならびに管理人の皆さんの不断の努力によるものです。