■フォーラム「登山を楽しくする科学Ⅳ」
2012年(平成24) 3月10日(土)
立正大学大崎キャンパス1151教室
1「地図の読み方、楽しみ方」田中大和(環境省生物多様センター)
2「空が教える山の天気-私の体験から」芳野赳夫(電通大名誉教授)
3「登山中の病気とトレーニング」野口いづみ(日本登山医学会理事)
参加者約200名 報告:山803(米倉久邦) 資料:A4-16P
報告
フォーラム大盛況
科学委員会主催のフォーラム「登山を楽しくする科学(Ⅳ)」が3月10日、立正大学大崎キャンパスの大教室で開かれ、会場には約200人を超える聴衆が集まった。地図、気象、医学の3テーマに、熱心に聞き入っていた。
トップは田中大和氏の「地図の読み方、楽しみ方」。現在は環境省に出向中だが、本籍は国土地理院だ。昨年2月から公開されている電子国土基本図が、これからの地図の基本であることや、従来の2万5千分の1の地図との違いを説明。さらにネットにアクセスして、どうやって地図をプリントするかなどを実際にやって見せた。市販の紙の地図は新しい情報が更新されないことや、磁北の話に関心が集まっていた。
次に電気通信大名誉教授の芳野赳夫氏が登場、60年を超える登山歴や南極越冬体験をもとに「空が教える山の天気―私の体験から」を講演した。装備がよくなって天候にお構いなしに行動する最近の傾向に警鐘を鳴らし、観天望気で遭難を回避した実体験や、高層、中層、低層の雲の動き、風の吹き方からどう天気の急変を判断するかを具体的に解説した。
最後に日本登山医学会理事の野口いずみ氏が「登山中の病気とトレーニング」をテーマに話した。山で急病になったらどう対処するのか、脳卒中や心筋梗塞などの重大な事態を例に対応を示した。また、脚力を付けることの重要性を指摘し、どうやれば無理なく筋力が養えるかを分かり易く指導。特に、最近話題のスロートレーニングを薦め、聴衆の半分以上を占めた女性から多くの質問が出された。
200人超の聴衆が集まり大盛況だったフォーラム
終了後に回収したアンケートでも回答者の88%が「大変良かった」「よかった」としており、高い評価を得た。
(米倉久邦)
予稿集 目次
フォーラム「登山を楽しくする科学Ⅳ」開催にあたって
科学委員会委員長 米倉久邦
講演1「地図の見方、楽しみ方」 環境省生物多様性センター企画官 田中大和
1・地形図はどのように作られるのか
2.地形図における地形表現
3.最新の地形図製作
講演2「空か教える山の天気一私の体験から」 電気通信大学名誉教授 芳野赳夫
1・天候に対する登山者の感覚の変化
2.観大望気による遭難回避の実例
3.観大望気とそれに対する登山者の対応
4.観天望気の基本的事項
講演3「登山中の病気とトレーニング」 日本登山医学会理事 野口いづみ
1・山で注意する病気
2.登山のためのトレーニング
3.まとめ
演者プロフィル
2013年3月10日発行 A4-16ページ 残部僅少 頒価¥500-
講演要旨
フォーラム開催にあたって
日本山岳会科学委員会委員長 米倉 久邦
[山]と「科学」。なんだか、とっても難しい話になりそうだと思う人が多いかもしれない。だが、山を科学の目で見ると、なるほどということがいっぱいだ。「山を科学する」という発想で登山を考えてみる。役に立つこと、山の楽しさを倍にしてくれることが次々に出てくる。山に出かける人たちに伝えられないだろうかーそんな狙いで始まったのが、フォーラム「登山を楽しくする科学」である。今年でもう、4回目になった。毎回、100入を超える皆さんが集まってくれる。今年も、期待に応えたいと思う。
取り上げるテーマ選びが、なかなかの苦労である。皆さんが聞きたいテーマ、我々が知ってぽしい話。どんなことに興味があるのか、アンケートも実施した。マンネリになってはいけない。だが、皆さんが納得し、満足してもらいたい。今年は、思い切って3つのテーマに絞った。あれもこれもよりも、じっくりと掘り下げた話を開きたいという声があったからだ。
第1話は、地図である。登山には必携だが、さて、どれだけ使いこなしているだろうか。ITの時代だ。山の地図といえば縮尺25000分の1の地形図だったが、いまは電子国土基本図がネットで自由に手に入る。縮尺自在だが、戸惑うこともある。電子基本図は昨年2月に正式公開されたばかりだ。使い方にもまだなじみがない。講師の田中大和氏は、いまは環境省に出向しているが、もともと国土地理院の役人である。地図のプロだ。電子地図という新しい手法を山でどう活用するのか。ぜひ、聞いてみたい。
第2話は気象を取り上げる。天気図で大きな天候の流れをつかむのは、もちろん九切だ。だが、山の天気は気まぐれ、高気圧の中でも局地的に崩れることもある。空を見上げて山岳気象を読むには、体験がかにより役に立つ。現代にも通用する先人の知恵だ。講師は学者であり、登山家、南極越冬隊長も務めた芳野赳夫氏。経歴に不足はない。数々の貴重な経験から面白くてためになる知識を伝授してくれるはずである。
締めくくりは、急病への備えと体力作り。激しい運動が心臓発作や脳卒中の引き金になることは稀ではない。山で発症したらどう対処するか。余裕の元気があるからこそ、登山は楽しい。そのために、常日頃からなにを心掛ければいいのか。講師の野口いずみ医師は高所医学の権威だ。華奢に見えるその体にどんな秘密かおるのか、ヒマラヤに何度も出かけている。負担が少なくパワーが付くトレーニング法を学ぶいい機会である。
地図、気象、体力。どれも登山に必須の話題である。皆さんの反応が楽しみだ。今年は質問の時間も、多めにとれると思う。「出、かけてきてよかった、出て来たかいがあった」。そう思っていただければ、フォーラムは大成功である。
地図の読み方、楽しみ方 環境省自然環境局生物多衛匪センター 情報システム企画官 田中大和
わが国全土を約4、000図葉でカバーする基本図が「1:25、000地形図」。
国土地理院のウェブサイト電子国土ポータルから、「電子国土基本図(地図情報)]が平成23年2月1日に正式公開されている。(従前の地形図から取得基準、表現方法が一部変更されている。)
わが国の位置と標高の基準は[日本経緯度原点]と「日本水準原点」.
日本経緯度原点:東京都港区麻布台2-18-1(旧・東京天文台)
経度東経 139゜ 4y 28″ .8869 緯度北緯 35゜ 3y 29″ .1572
方位角 32° 2(y 46″ .209(つくば超長基線電波干渉計観測点に対する値)
日本水準原点:東京都千代田区永田町1-1-2(国会前庭北地区憲政記念館構内)
東京湾平均海面上24.3900m(平成23年10月21日改定)
東北地方太平洋沖地震の影響による地殻変動が観測されたため、平成23年10月2↓日改定
(経綸度原点は東に0.0110″(276.7mm)移動、水準原点は24mm沈下したということ.)
.....図.....
地形図(電子国土基本図(地図情報))における地形表現
1kmを4cmで表現、1図葉が概ね10km四方を表現
等高線:主曲線:10mごと、計曲線:50mごと、補助曲線:(補助的に)5m又は2.5mごと
上崖、岩崖:原則として、高さ5m以上かつ長さ500m以上のものに適用
雨裂:雨水の流れ二よりできる谷上の地形で概ね25m以上のものを取得
岩:大きさ概ね40mx40m以上のものに適用
砂徨地、湿地:大きさ概ね250mx250m以上のものに適用
滝:概ねの高さが5m以上、落口の幅が20m以上のものに適用
(適用範囲に満たないものでも、特に著名なものについては、落口の幅を20mとして表現)
万年雪:9月期の状態で大きさ概ね250mx250m以上のものに適用(地形図の季節は晩夏?)
磁気図2010.0年値 東京周辺の偏角(真北と磁北のなす角度)は、およそ酉偏7度。
(この40年間で方位磁針の示す向きは、約0.7度西に変化している。伊能忠敬が地図を作成した200年前は、偏角はほぼO度(真北と磁北がほぼ一致)していた。)
空か教える山の天気---私の体験から 電気通信大学名誉教授 芳野赳夫
1.天候に対する登山者の感覚の変化
2.観大望気による遭難回避の実例
3.観大望気とそれに対する登山者の対応
4.観天望気の基本的事項
登山中の病気とトレーニング 日本登山医学会理事 野口いづみ
1.山で注意する病気
2.登山のためのトレーニング
3.まとめ