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公益社団法人日本山岳会

越後支部80周年記念事業山岳古道 九才坂峠(600m)を歩きました。

○ 日 時 令和5年9月10日(日)
○ 参加者 CL遠藤 家之進正和、SL多田 政雄、渡辺 茂、滝沢 信子
○ 地図 国土地理院 1/25000 安座

弘法大師空海が九才のときに土井から安座(西会津町安座)に向かって歩いた峠と言われており、八蛇沼伝説が伝わる水沢までの峠路を歩いた。伝説を含め峠名は諸説あり、村を救うため歩いたことから「救済坂」が長い年月から「九才坂」に転化したのではとも言われている。
土井から津川まで24キロあるが、西会津野沢までは10キロ、徒歩なら2時間半足らずで着く近さであるため、必然的に会津との交流が深かったのではないだろうか。昭和の20年代までは、七名地区と西会津地区を結ぶ主要道路として物産を運ぶための峠路として使われていたという。
土井集落入口 今年の夏は猛暑の連日で、最高気温測定地が新潟県が上位を占め、9月に入っても残暑が厳しい。ようやく待望
の雨が降り、幾分涼しくなり踏査日和となる。 早朝、西会津水沢登山口に車をデポし、9時に阿賀町役場に集合の後、出発地の土井集落に向かう。秋晴れの 空が広がるもと踏査に出発。

                   

       カミナリササゲ       コウヤマキ  

土井集落は、在住者が居なくなったのか朽ちた家屋が点在し、夏場の耕作作業に通っているのだろう、畑が耕作されているが、物音しない。羽賀一蔵氏著の「越後佐渡の峠を歩く」の九才坂峠の項で『天然記念物に指定されているらしい「カミナリササゲ」の大木が・・・』という記載が気になりみんなで探す。インゲンに似た実がぶらさがった木を見つけ納得する。近くには北限として知られる常緑高木の「コウヤマキ」がある。

土井登山口
 集落から下草に覆われた道を進むことわずかで、案内板のある登山口に着く。傍らにはイチョウの大木があり、杉林のなかにはっきりした道が伸びている。地図では集落から東小出川に出て、沢に沿って道が記載されているが、峠 への道は沢に張り出した尾根の中間を乗越してついている。
 

小沢を渡り、山腹を巻くように平坦道となり、白い葉のマタタビ、サンカヨウ、ハナイカダの実を眺めながら進むと沢側にふじつるとブナの木に抱き込まれた大岩がある。杉林を過ぎると東小出川の支流に出る。沢への降り口は洪水でえぐられたのだろう崖となっていて、注意が必要な処だ。 

木に抱き込まれた大岩

 

ここから道は沢沿いとなり川を渡り、ミズの群生した草藪を分けて登るが、道ははっきりとしていて迷うことはない。しかし、増水期の山行は要注意となる。 今年は猛暑のお陰か水量は少なく、サワクルミ、トチの実を拾い、時折り差す日差しを浴びながら沢歩きを楽しむ。水量が少ないとはいえ、滝つぼにはそれなりのよどみがあり、イワナが岩陰に逃げ込むのを沢釣りを楽しむ仲間は見逃さない。沢筋にはウルイが密集しているが、ここまで山菜取りには来ないのだろう。沢から高みに離れると朽ちた標識が横たわっているが「落石注意」と読み取れる。こういう傍らはイワカガミがピンクの花を楽しませてくれる。土井集落から九才坂峠まで約1時間30分という行程だが、沢筋の道を40分ほど進むと、左に目指岳に突き上げる沢に出る。ここから九才坂峠への登山道は、沢筋を巻くように 記載されているが、実際は張り出した尾根につけられており、登りへの休み処である。 峠への道はつづら折りで、朽ちた階段の杭も残っており、良く整備されている。ブナの大木の中、落ち葉に埋もれた道が続き、いかにも峠に差し掛かったという雰囲気を味わえる登りである。クリの木もあるが、今年はまだ落ちてい ない。傍らのミツバオウレンを眺めながら最後の曲がりを登ると、パラボラアンテナを利用した名前が消えかかった標識がある九才坂峠に到着する。

 

峠はブナの林の中にあり、展望はきかない。杉の大木は枝を付けた下部で折れており、いずれは朽ちるしかなく残念である。しかし、その大木に、「日本山岳会越後支部20周年記念新潟県境全縦走踏査」の標識が、調査の時取り 付けたのが残っていた。80周年記念行事として進めている古道調査の九才坂峠に、60年を経た今も現存していることに感激を覚えざるを得ない。ちなみに私は、県境全縦走踏査時は高校2年生で、まだ登山は始めていなかった。小休止の後、目指岳へ向かう。片道約30分の行程である。ブナ林の平坦道をクマササを分けて進むが、近時歩かれているせいか道に迷うことはない。中間地点で下り、平坦に安心する間もなく一気に急登となる。小枝に掴まりながらの登りで、山頂直下にコウヤマキの大木があるが、見る余裕もない。登りきると秋晴れの空のもと会越県境の展望が開ける目指岳(650.3m)に到着。

 

北には土埋山の奥 に兎ノ倉 山から飯豊連峰。振り返れば大倉山。眼下には竜ヶ岳が望め、奥には磐梯山が見えるのだが、生憎雲に隠れて見えず、手前に西会津の野沢の町並みが遠望できる。 陽射しが強く、木陰に逃げ込み、水分補給に渡辺氏持参の冷やした梅酒ソーダは、乾ききった喉に最高だ。 展望を楽しんだ後一気に九才坂峠まで戻り、昼食とする。風はなく蒸し暑いが、ブナで陽射しが遮られて助かる。鳥もセミの鳴き声もしない。 水沢への道は竜ヶ岳へ伸びる尾根について有り、若いブナの幹を眺め、いかにも峠道という雰囲気を味わえるところである。下ってすぐに展望が開ける処に出る。眼下に水沢集落、竜ヶ岳も見える。右手には大倉山から夜鷹山、大山祗神社のある台倉山が遠望できる。

 コナラ、ブナ、マンサクの雑木林の中を下り、尾根を乗越す手前で、先ほど登った目指岳が見え隠れする。晴れて
いれば飯豊連峰大日岳が大きく遠望できる。 尾根を乗越すとブナ林を、落ち葉を踏み付ける音だけを聞きながら下る。草藪となり杉林が出、右に堰堤が見える。

 目指岳遠望! 

    

すぐに水沢登山口に着く。 九才坂峠から45分で一気に下ってしまった。水沢ルートからは、登山口から沢沿いの道が悪いだけで、林に入れば登り易く、良く整備されている。 調査はここまでであるが、近くに弘法岩屋があるので足を伸ばす。10分足らずで岩をくりぬいた中に造られたお堂に着く。巡錫中の弘法大師がこの岩窟に籠り、大蛇の悪霊 を鎮めたという。大師は去るに当たり自らの姿を刻み、岩窟に安置したという安座地域の八蛇沼伝説である。 見下ろせば、黄色に実った稲穂が広がる田んぼの脇に、水色の屋根の水沢集落がたたずんでいる。

 上川七名地区は七福神を各集落に設置し、地域起こしを 進めており、土井集落には「弁財天」が設置されている。福を求めて七福神を巡る里歩きに訪れてはいかがでしょう。                  記 遠藤 家之進正和 

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