メニュー

公益社団法人日本山岳会

弥平四郎~シシ笠尾根~大日岳~本山 単独日帰り

「今年は少雪だ。」 二月に西俣の峰を歩いた時、ため息交じりに口に出た。三月に雪量はやや盛り返したものの例年よりは四月の高温続きで雪解けも早い。沢の下降ポイントがこの時期どうなっているのかと思案しつつも二年越しのチャレンジは4月14日に設定した。シシ笠尾根上部を望む

           シシ笠尾根上部を望む 午前9時頃

 14日午前1時、弥平四郎の林道は駐車場までは行けずとも、半分までは通行ができた。歩き始めに雪はない。松ノ木穴沢の状態と前川の水量に不安を募らせもやもやして歩く自分とは正反対に、夜空には下弦の月と星々がはっきりとくっきりと煌めく。上ノ越には雪稜が豊富にある。ストックをピッケルに持ち替え、かんじきをデポしアイゼンを装着、ここからが本番だ。夜半を過ぎているが雪は全く締まらずに急斜面を不安なく降りる。やがて薄明るくなる頃には松ノ木穴沢の行程は半分を超え、雪渓が途切れ始める。右岸左岸と渡渉を繰り返しながら前川の出合いへとたどり着く。時刻は午前五時、眼前には激流が流れていた。尾根末端を捉えるも渡渉が難航する。想像し確認し登り降りすること三、四度、漸くここならと思えるラインを見つけ、何とか登山靴がしみる程度で渡り切る事ができた。高温続きのためかしびれる冷たさはもうなかった。

    

前川を渡りきってから写す(5時40分)  シシ笠尾根末端700m(5時45分)

 シシ尾根の1150m(7時過)

650m程度のシシ笠尾根末端の岩を登れば平らな台地状になっており、テンバには最適だ。この時期でも雪はもうなく、始めは気持ちの良いブナ林の斜面を尾根沿いに忠実につけられている獣道を利用して高度を上げる。薄暗い沢筋から見通しの効く高さに来ると前川下流の実川方面には高陽山、前川源頭部には飯豊本山から疣岩山、視線を上げれば櫛ヶ峰と牛首山が見える。巻岩山から昇る日差しが眩しい。好天の続く飯豊は雲一つなく今日も激しく日焼けしそうだ。やがてブナ林は雪面となり広い尾根も眼下へ、標高1500mあたりには岩場があり、両側が切れ落ちている。大体そんなところは雪がいやらしく残っていて緊張させてくれる。反して本山~御西ラインのたおやかさが際立ち、オンベマツ尾根は終始きれいなラインをみせつけている。

 

 入り鳥ノ子沢源頭部        前川源頭部と本山   どちらも1330mから7:30

                「ああ、飯豊だなあ」
目を閉じてその場所の匂い、温度、光、その瞬間を慈しむ時間がいつも山にはある。

 標高が1650mになると尾根幅はやや広がり、入り鳥ノ子沢側の斜面もなだらかな広がりを見せる。正面に見えていた岩と灌木帯は登らずに済みそうだ。BCも楽しいだろうなあ。稜線手前には雪庇があると予想していたが全くない状態であった。緩やかな斜面をトラバースしながらシシ笠尾根の終わり、稜線へと登る。 4時間前の沢床の暗い世界から、360度の飯豊と近隣の山々を見渡せる世界へ。牛首山はすぐそこだ。

  

  櫛ガ峰とオンベ松尾根        稜線手前のトラバース(1820m)

          

           牛首山とかすむ大日岳(オンベ松の合流地点ヨリ10:00)    

          

                御西小屋と大日岳 (12:40)

 ここまで概ね計画り進むことが出来、自分が未踏の尾根を登れた達成感もある。ただ、シャリバテ気味の体から見える大日岳とその急登ははるか遠くに、これから辿る弥平四郎までの行程を考えると気が遠くなったのは確かである。最終的には30km歩いた。                           

    三国小屋手前1680m点18:00日没 

          

     巻岩山を19:45 出発地点に到着したのは21:48だった。 延べ20時間30分を要した。 

                                          2024.4.19 多田和広    

pagetop