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公益社団法人日本山岳会

フォーラム報告 「登山を楽しくする科学(XⅣ)」2024年11月

2024フォーラム「登山を楽しくする科学(XⅣ)」報告

                                         科学委員会委員長 松本敏夫

日本山岳会・科学委員会主催によるフォーラム「登山を楽しくする科学(XⅣ)」が、2024年11月9日(土)、13時から17時、立正大学品川キャンパス・ロータスホールで開催された
 参加者は、一般登山愛好家が31名、日本山岳会会員が12名、また科学委員会委員が20名(その内2名は講師)及び講師1名で、参加者の総数は64名でした
 司会は科学委員会の木曽雅昭事務局長が担当、科学委員会の松本敏夫委員長による開会の挨拶があった。その中で、講演予定者の須田知樹氏のご親族にご不幸があり、やむを得ず欠席となった理由を説明し、急遽、元科学委員会委員長の福岡孝昭氏に講師を依頼した経緯を説明した。

講演1では、「富士山ってどんな火山」(パワーポイントの別添資料配布)、元立正大学地球環境科学部教授で日本山岳会の福岡孝昭氏から、1)富士山の火口位置が北西及び南東方向に偏りがあるのはプレート運動に原因、2)現在の富士山は小御岳の上に古富士火山が重なりその上に現在の富士山がある、3)大沢崩れがどのようにできたか、今後の大沢崩れの姿と源頭部の砂防工事、4)お助け小屋とお中道(富士講)、等に関する講演があった。初めに富士山の地質、赤色地図の特徴など、講師が調査した実施経験を踏まえた報告があった。火口列の位置に特徴があるのは、フィリピン海プレート、太平洋プレート、北アメリカプレートの動きが影響して富士山の北西及び南東に列になって現れると指摘された。富士山崩壊の過程を示す大沢崩れ源頭部の現状及び歴史的変化、砂防工事は下流部での被害を防止するため、との説明があり、自然保護に興味がある参加者にも大変好評であった。

                ロータスホール会場風景                                                                                                                                   福岡孝昭氏 

   講演2では、「スマホGPSで登山を楽しく~スマホGPSによってなにができるか、その楽しみ方~」と題して、日本山岳会の近藤雅幸氏日本山岳会登山講習会・読図講習会の主任講師)から、1)GPSとは・GPSで位置がわかるわけ・GPS衛星など、2)GPSチップ・信頼性、GPSにはデバイスとアプリと地図が必要、GPSは何ができるか、3)スマホ用GPSアプリの種類、4)ジオグラフィカの使い方、等について興味深い講演があった。登山初心者にとって、読図の必要性は十分に理解できてもマスターするのは困難である。スマホGPSアプリを利用することで、現在地の確認が容易になり、アプリを使いこなすことで今までとは異なった登山を楽しむことも可能となる。最後にジオグラフィカを実際に使用しながら、スクリーンにその映像を映して、解りやすく説明を加えるという斬新なテクニックを披露頂いた。GPSアプリは様々な使い方ができることを示され、登山初心者だけでなく経験者に対しても、安全登山に貢献できると共に、GPSアプリにより今までより一層読図を楽しむことが可能になる講演でした。

 講演3では、「チベット医学と祈り~山と薬草と仏教と、ダラムサラ10年の暮らし~」と題して、チベット医で森のくすり塾を主宰する小川康氏からは、1)四部医典、2)医学生の仏教的日課、3)医学生と瞑想、4)民衆と薬に関する講演があった。はじめに「タルチョ」を演壇の前に広げ、タルチョの意味や記載された文字の説明及び通常は峠に掲げるものと指摘された。かつてチベット人が山に登るのは宗教的な祈りのためであり、登山を楽しむためでは無かったことを改めて理解できた。特に印象的であったのは、数十日間に亘り山に入り、約50種類に及ぶ一年分の薬草を採取する医学生の日課には深い感銘を受けた。薬草は薬になるだけではなく、香草の煙が仏様の供養になるとの考えがある。講演の途中にチベット語で真言や経文を唱えられ、その声量と神秘的な響きに圧倒される思いであった。別添資料「チベット医学・祈りという名の有効成分」では一人のチベット医学生の日常が報告されて、厳しい修行の内容の一部が理解できた。チベット医学が仏教と深く関連し、地域の人たちに支持されている状況が理解でき、印象的な講演でした。

                                         
                    近藤雅幸氏                                                                                                  小川 康氏

科学委員会ではフォーラム開催に際し、講師の先生方と会場に参加された皆さんとが活発な意見交換をして頂くために、十分な質疑応答の時間を確保することを目標の一つに掲げておりました。各講師の先生方と参加者との間でコミニケションに活発に行われ、講演内容の理解を深めることができたと思われます。

最後に、素晴らしく設備の整った会場を使用させて頂いた立正大学様、会場に足を運んでいただいた参加者の皆様、また、フォーラムの運営に協力頂いた科学委員会の委員に感謝申し上げます。

以上

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