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公益社団法人日本山岳会

2019年の台風の特徴と、山岳による被害の差異について

[特別寄稿]

猪熊隆之(山岳気象予報士、ヤマテン代表取締役、日本山岳会会員)

2019年は、2018年に続き、台風による甚大な被害が発生しました。今年の特徴としては、東日本の山岳に被害が集中したこと、台風19号による被害が大きかったことにあります。そこで、2019年における台風被害の特徴と、被害が東日本の特定の山域に集中した点について考察します。

 

1.2019年の台風による被害の特徴

2018年は、台風21号と24号によってそれぞれ西日本、東日本の山岳で大きな被害が発生しました。21号では近畿地方の山岳で甚大な被害があり、北陸地方の山岳や北アルプスでも被害が発生しました。また、24号では八ヶ岳、南アルプスで林道の崩落や沢の氾濫、橋の流出、土石流、倒木などの甚大な被害が発生し、関東地方、山梨県の山岳でも倒木などの被害が多数発生しました。

これに対して、2019年は東日本の山岳に被害が集中しています。これは、東日本に強い勢力で上陸した台風が多かったためで、特に台風19号では八ヶ岳、南アルプス、奥秩父、関東地方、上信越、東北地方太平洋側の山岳に大きな被害をもたらしました。

 

2.台風15号と19号による登山道の被害

2019年に襲来した台風の中でも台風15号と台風19号による被害が大きかったことは皆様もご承知の通りです。台風15号では千葉県や伊豆諸島を中心に、暴風による家屋の損壊が相次ぎ、千葉県では長期間にわたって停電が発生しました。山岳地域での被害は房総半島や三浦半島、伊豆半島など東日本の沿岸部と伊豆諸島に被害が集中していました。

一方、台風19号では南アルプスや関東山地で甚大な被害が発生し、八ヶ岳、三浦半島、上信国境の山岳、妙高など上信越地域も含む広い範囲で倒木や沢の氾濫、土砂崩落などの被害が発生しました。

 

3.台風15号と19号の勢力

台風15号と19号は、マスコミなどでは「史上最強台風」などと騒がれていましたが、それほど“異例”で“最強”の台風だったのでしょうか?

上陸時の中心気圧は、台風15号が960hPaで上陸直前の最大風速は40m/sと「強い」勢力(ただし、三浦半島通過時は955hPa)、台風19号は中心気圧が955hPaで上陸直前の最大風速は40m/sと「強い」勢力になります。1991年以降では、台風19号と同じ伊豆半島に上陸した2004年の22号が今回よりも強い950hPa、最大風速は同じ40m/s。浜松市に上陸した2011年の15号も中心気圧が950hPa、最大風速40m/sの強い勢力で上陸しています。また、首都圏に上陸した台風としては、川崎市付近に上陸した2002年の21号が960hPa、最大風速35m/sの強い勢力で上陸しています(表1参照)。

表1 「強い」 以上の勢力又は 「大型」 「超大型」 で関東地方・ 静岡県に上陸した台風(1991 年以降について)《気象庁提供》

台風

上陸地点

上陸直前の最大風速

上陸直前の中心気

上陸直前の強風域半径

1998 年第 5 号

静岡県御前崎付近

30 m/s

965 hPa

650 km (大型)

2002 年第 21 号

神奈川県川崎市付近

35 m/ s (強い)

960 hPa

440 km

2004 年第 22 号

静岡県伊豆半島

40 m/ s (強い)

950 hPa

370 km

2005 年 第 11 号

千葉県千葉市付近

35 m/ s (強い)

980 hPa

260 km

2007 年第 9 号

静岡県伊豆半島南部

35 m/ s (強い)

970 hPa

310 km

2011 年第 15 号

静岡県浜松市付近

40 m/ s (強い)

950 hPa

560 km (大型)

2014 年 第 18 号

静岡県浜松市付近

35 m/ s (強い)

965 hPa

500 km (大型)

2016 年第 9 号

千葉県館山市付近

35 m/ s (強い)

975 hPa

220 km

2017 年 第 21 号

静岡県掛川市付近

40 m/s (強い)

950 hPa

850 km (超大型)

2019 年第 15 号※

千葉県千葉市付近

40 m/s (強い)

960 hPa

200 km

2019 年第 19 号※

静岡県伊豆半島

40 m/s (強い)

955 hPa

600 km (大型)

※2019 年第15 号、第 19 号は速報値

 こうしてみると、台風15号と19号が特に、異例で桁外れに強い台風という訳ではなさそうです。それでは、これまで関東、静岡県に上陸した台風と比べて被害が大きくなったのはどういう理由によるのでしょうか?まずは、台風15号と19号による被害の特徴について見ていきましょう。

 

4.台風15号による被害の特徴

台風15号は、暴風による被害が大きく、千葉県市原市におけるゴルフ練習場の鉄柱倒壊事故や、千葉県内の大規模停電による被害が大きく報じられました。登山道の被害も、鋸山など房総半島の山岳、鎌倉アルプスや、天城山などで倒木や土砂崩れによるものが多くなっています。平地のデータではありますが、台風通過期間中の最大風速を見ると、伊豆半島から関東南部沿岸の19地点で観測史上1位の記録を更新しています。それに対して、24時間降水量では観測史上1位を更新した地点は1地点もなく、9月1位が大島と千葉県成田市の2カ所のみです。

このことからも、15号では大雨よりも暴風が猛威をふるった台風と言えるでしょう。

 

図1 台風15号が通過した9月7日~9日の最大風速と観測史上1位を更新した地域(9月としての1位も含む)《気象庁提供のものに猪熊が加筆したもの》

図2 台風15号が通過した9月7日~9日の24時間降水量の最大値と観測史上1位を更新した地域(9月としての1位を含む)《気象庁提供のものに猪熊が加筆したもの》

5.台風19号による被害の特徴

19号は、大雨によって河川の氾濫や堤防の決壊、土砂崩れが相次ぎ、居住地域に大きな被害を出しました。千曲川、阿武隈川、那珂川など大河川を含む71河川130か所で堤防が決壊した他、信濃川、阿賀野川、多摩川などの大河川を含む多くの河川で堤防越え氾濫が発生しました。まさに、日本を代表する大河川、そして中小河川が同時多発的に氾濫し、甚大な被害をもたらしたのです。こうした被害は極めて異例なことと言えるでしょう。

このように大きな被害が発生したのは、河川の上流部にあたる山間部で記録的な大雨となったことが大きな要因です。図3をご覧いただくと、東日本から東北地方にかけての多くの地域で観測史上1位を更新していることが分かります。台風15号が通過した際(図2)と比べると、その違いが一目瞭然です。

図3 台風19号が通過した10月10日~13日の24時間降水量の最大値と観測史上1位を更新した地域(10月としての1位を含む)《気象庁提供のものに猪熊が加筆したもの》

この大雨によって登山道も大きな被害を受けました。特に、南アルプスでは土砂崩れや、河川の氾濫、増水による橋の流出、登山道の崩落などが相次ぎ、甚大な被害が発生しました。暴風による被害もありましたが、大雨による被害に比べると平地での被害は小さいものでした。その一方で、登山道における倒木の被害は東日本の広い範囲に及び、大きいものでした。図4をご覧いただくと、台風19号による最大風速は、15号に比べて非常に広い範囲で観測され、日本海側でも20m/sを超えている地点があります。また、観測史上1位を更新したエリアも比較的散らばっている印象です。この点でも観測史上1位を更新した地点が関東南部から伊豆諸島に集中している15号とは大きく異なっています。

図4 台風19号が通過した10月10日~13日の最大風速と観測史上1位を更新した地域(10月としての1位も含む)

6.台風15号と19号の違い

これまで、台風15号と19号による被害の特徴について見てきました。大雑把に言えば、居住地域での被害は台風15号が暴風によるものが多く、台風19号は大雨による被害がそのほとんどを占めています。

このように、似たような進路を取りながら2つの台風で被害状況が大きく異なった理由は、台風15号と19号の性質の違いによるものです。

・台風15号

台風15号(以下、15号)は、強い勢力でありながら暴風域や強風域の半径が小さいコンパクトな台風です。強風域の半径は、1991年以降に「強い」勢力で関東地方、静岡県に上陸した台風の中ではもっとも小さくなっています(表1)。一方、台風19号は強風域の半径が600kmと大型の台風です。上陸直前の台風の中心気圧は15号が960hPa(三浦半島通過時は955hPa)、19号が955hPaとほとんど変わりがありません。同じ中心気圧の場合、コンパクトな台風ほど中心付近の気圧傾度が大きくなり、大型の台風に比べて中心付近、特に進行方向の右側で風が強まる傾向にあります。台風の進行方向右側は「危険半円」と呼ばれ、台風自身の風と台風を移動させる周りの風が同じ向きになるため、進行方向左側に比べて風が強まります。実際、図1をご覧いただくと、最大風速の観測史上1位を記録した地点のほとんどが進行方向の右側です。千葉県で停電や家屋の被害が大きかった地域も台風が通過した東側の地域になります。

また、台風15号のようにコンパクトな台風は、暴風域の半径が小さいため、台風が接近するまでは、それほど風雨が強くなりませんが、台風が接近すると、急激に風雨が強まっていく特徴があり、風雨が強まってから避難したのでは間に合わないことがあります。

15号で暴風の被害が大きくなったもうひとつの理由は、台風の最盛期に関東地方に接近したことです。台風のエネルギーは、熱と水蒸気です。台風が上陸すると勢力が衰えるのは、水蒸気が得られにくくなることや、地形による摩擦で、台風を形成する渦が弱められるためです。通常、台風が関東地方に接近するときは、海水温が低くなり、伊豆半島や関東山地など地形の影響を受けるため、勢力が弱まりますが、15号は台風がもっとも勢力を強める最盛期に三浦半島を通過しました。このときの中心気圧は955hPaです。千葉市に上陸したときは、960hPaと少し弱まりましたが、それでも最盛期から5hPaしか気圧が上昇していません。

図5 台風15号の進路と中心気圧の変化《気象庁提供のものに猪熊が加筆したもの》

一方、19号は、955hPaで伊豆半島に上陸しましたが、最盛期の時点よりは40hPaも気圧が上昇しています。つまり、最盛期を過ぎて衰弱期に入っていることを示しています(図6)。

図6 台風19号の進路と中心気圧の変化《気象庁提供のものに猪熊が加筆したもの》

これは、あくまでも筆者の感覚にすぎませんが、同じ中心気圧の台風でも衰えかけている台風より、勢いがある台風の方が、台風を取り巻く渦もしっかりとしており、台風の中心付近で風が強まるように思います。台風が最盛期の状態で伊豆諸島、伊豆半島、関東地方に接近したことが暴風による被害を大きくした要因のひとつである可能性があります。

山岳における暴風の被害は、台風が通過した三浦半島、高尾山など首都圏の山岳やその東側にあたる房総半島と伊豆諸島の山岳に集中しています。19号で被害が大きかった南アルプスの被害が小さく、八ヶ岳や上信越では被害がほとんど発生しなかったのは、台風の暴風半径が小さかったことと、これらの山岳では台風の進行方向左側に入ったことが大きいのではないかと思われます。

一方、15号による大雨の被害が少なかったのは、台風がコンパクトな分、それを取り巻く雨雲の範囲も狭かったこと、台風上陸の24時間前になっても関東~東海地方では気圧傾度が小さく、南東からの湿った空気が入りにくかったことが要因です(図7)。

図7 台風15号が上陸する24時間前の天気図(気象庁提供)

それでも台風の周辺には非常に活発な雨雲があり、天城山で1時間に109mmの猛烈な雨、横浜市で72mmの非常に激しい雨が降りましたが、それが長く続くことはなく、一時的に冠水の被害があったものの、大河川が氾濫するなどの大きな被害は発生しませんでした。山岳における大雨の被害は、1時間に100mmを越え、24時間降水量が450mmを越えた天城山では登山道の被害が発生しましたが、その他は、鎌倉アルプス、房総半島、伊豆諸島など東日本の沿岸部に限られました。

・台風19号

台風19号(以下、19号)は大型の台風であったため、台風が関東地方を通過する24時間以上前から関東、中部地方で気圧傾度が大きくなりました(図8)。このため、南東風が強まり、台風の周辺から多量の水蒸気が流れ込みやすい形が台風接近時まで長時間続きました。この多量の水蒸気が南東風によって関東山地、奥羽山脈、阿武隈山地で上昇させられ、雨雲が山間部で長時間発達し、さらに台風接近時には台風本体の非常に発達した積乱雲がかかって、さらに多量の降水がもたらされました。そのため、箱根で総降水量が1,000mを突破し、奥多摩や秩父で600mmを超える大雨となったのに対し、関東平野では地形性の上昇気流が起こらなかったため、そこまでの大雨になりませんでした。東北地方の太平洋側では海と山が近接しているため、平地でも大雨となり、宮城県丸森町では600mmを超える雨量を観測しました。19号で大河川が増水、氾濫したのは、これらの河川の上流部の広い範囲で記録的な大雨になったためです。

図8 台風19号が神奈川県、東京地方を通過する24時間前の天気図(気象庁提供)

山間部中心の大雨となり、非常に湿った南東風や東風による地形性の降水が続いたため、南アルプス、八ヶ岳、関東山地、阿武隈山地、奥羽山脈、上信国境の山岳など広い範囲で登山道やアプローチの林道などに大きな被害が発生しました。また、妙高・頚城山塊では、台風が関東地方を通過した頃から、日本海からの非常に湿った北寄りの風が続き、地形性の上昇気流が強められて大雨となりました。太平洋側の山岳だけでなく、日本海側の山岳でも登山道の被害が発生したのが19号の特徴のひとつです。

2015年9月の鬼怒川の堤防決壊のときも同様に、上流部で記録的な大雨となり、下流部ではそれほどの降水量ではなかったにも関わらず、大きな被害が発生しました。山間部で大雨になるときは、居住地域で大雨にならなくても河川が増水し、氾濫する恐れがあります。特に、上流部の山域で長時間大雨が続くときは警戒が必要です。

また、19号で長時間、大雨が続いたのは台風の進路と速度も影響しています。図6をご覧いただくと、台風19号は関東地方の南海上からほぼ北へ進んできています。また、上陸後も15号のように急速に東寄りに向きを変えることなく、関東から東北地方の太平洋岸を沿うように進んでいきました。このような進路を取った台風では、これまでにも関東山地から阿武隈山地、奥羽山脈太平洋側で大雨となる傾向がありました。これは、これまで述べてきたように、静岡県から関東甲信地方、さらに東北地方太平洋側にかけての南東斜面では、台風接近前から非常に湿った空気の流入と地形による上昇気流が続き、長時間大雨が続くからです。

さらに、もうひとつ記録的な大雨となった原因として、台風の進行速度が遅かったことが挙げられます。

10月になると、偏西風が日本上空に南下してくるため、台風は日本付近に接近すると、偏西風に乗って速度を上げていくのが普通ですが、19号の接近時は、偏西風がサハリン南部付近を通っていており(図6)、例年より大幅に北側に位置していました。このため、日本付近の上空では台風を流す風が弱く、台風の進行速度が遅くなりました。

このように、19号では、台風が大型だったことと、台風の進路と速度が被害を大きくしたと言えるでしょう。

今後、地球温暖化の進行などの気候変動がさらに進むことが予想され、太平洋高気圧の中心が夏には日本より北に位置ようなことがあるかもしれません。そうなると、日本付近では熱帯の偏東風(貿易風)のエリアに入り、2018年7月の台風12号のように、東日本から西日本へと進む台風が出現することも考えられます。そうすると、進行方向右側にあたる地域が台風の北側になり、台風の進行右側=東側という、これまでの常識が通用しなくなることも考えれます。

また、秋になっても太平洋高気圧の勢力が日本付近に居座り、偏西風が南下しない年が増え、迷走したり、進行速度が遅くなって長時間、大雨をもたらす台風が現れるかもしれません。さらに、日本近海の海水温が高くなり、日本の近海で台風が発生して、発生から1~2日後に接近、上陸したり、非常に強い勢力を維持したまま上陸することも考えられます。秋雨前線を刺激して大雨が続いた後に台風が直撃、という最悪のケースも考えられます。

いずれにしても、気候変動からこれまでの常識が通用しなくなってきています。私たちは、地球温暖化の進行を少しでも遅らせるための努力と、気候変動による影響を小さくするための対策を取らないと、本当に取返しのつかない所に来ているのだと思います。

 

文責:猪熊隆之

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