1.日本百名山「伊吹山」お花畑の不思議
森林インストラクター・樹木医 石井誠治氏
2.エベレスト登頂撮影はどのようになされたか
日本山岳会理事、元NHK報道カメラマン 清水義浩氏
3. 歩行ペースとコースタイムから考える安全登山の科学
鹿屋体育大学教授 山本正嘉氏
参加者:160名 報告:山930(平野裕也) 資料:予稿集A4 17P
◆報告:フォーラム「登山を楽しくする科学 Ⅶ」
科学委員会主催のフォーラム「登山を楽しくする科学Ⅻ」が10月2日に品川区大崎4-2-16の立正大学品川キャンパス150周年記念館「ロータスホール」で開催された。本フォーラムは2020年3月実施予定で準備したが、開催直前で折からのコロナ禍により延期となったため、3年越しの開催となったものである。同タイトルでの開催は今回で12回目となり、申し込みが180名を超えたことでも登山愛好者になじみ深いイベントとなったことが窺えた。
当日は160名余の参加のもと、森林インストラクターで樹木医である石井誠治先生の「日本百名山伊吹山お花畑の不思議」で始まった。
標高が1300m余と決して高山ではないが、1182㎝という積雪深世界記録は今でも破られていない近畿地方の伊吹山は、多雪による山頂付近の草原、そこに白山や立山に由来する北方系植物と四国、九州由来の暖温帯の植物が混ざり、石灰岩質の土壌や麓の砂岩や泥岩地質の影響もあって、特殊かつ多様な植物の宝庫となっている。このような貴重な植生に対する最大の敵は過剰ユースと鹿、イノシシの食害と結んだ石井先生の言葉が心に残った。
2番目は日本山岳会理事で元NHK報道カメラマンの清水義浩先生の「エベレスト登頂撮影はいかになされたか」である。
清水先生は1995年に世界初登頂を果たした日大隊エベレスト北東稜遠征にNHK から同行した8名のクルーの一員として登頂までの一部始終を当時開発されたばかりのハイビジョンカメラに収めたカメラマンだ。高所、寒冷地下での機材の作動確保や運搬の苦労の後に、快晴無風の僥倖も得て2名の隊員と2名のシェルパが見事登頂した一部始終をハイビジョンカメラに収めることに成功した経緯をたくさんの貴重な写真で説明していただいた。またNHKスペシャルで放映された「チョモランマ遥か」から抜粋した動画も感動的なものだった。
3人目は鹿屋体育大学教授の山本正嘉先生の「歩行スピードとコースタイムから考える安全登山の科学」だ。
まずは「メッツ」という概念説明から始まった。メッツとは安静時の1分あたりの使用エネルギーであり、軽装でゆっくり歩くハイキング(登高速度では300m/h)が6メッツ程度で安全圏だが、無雪期登山や、雪山などバリエーションは7メッツ以上となり突然死を起こす危険性があるとの説明にびっくり。一般登山者の登高スピード調査のグラフで最頻値は男性が9メッツ、女性が8メッツとの説明にまたびっくり。高齢の身ではもっとゆっくり登らなければと改めて反省した。その他登山地図の全国2000以上のコースタイム分析で累積標高差1000mの登り下りは平均で6時間程度であり、これはちょうど6メッツ程度であることなども示された。今後はスマホから得られるビッグデータの解析により全国の山域でのコースタイムの標準化に取り組み、安全登山を科学から追及するとの話で締めくくられた。
3先生の熱のこもったかつフランクな講演に対してフロアからの質問も多く、充実したフォーラムとなった
(平野裕也)
山930号(2022年11月号)より
◆会場写真
会場風景
石井先生講演
清水先生講演
山本先生講演
◆予稿集
1.日本百名山「伊吹山」お花畑の不思議・・・・・・・・・・・3
森林インストラクター・樹木医 石井誠治氏
2.エベレスト登頂撮影はどのようになされたか・・・・・・・・7
日本山岳会理事、元NHK報道カメラマン 清水義浩氏
3. 歩行ペースとコースタイムから考える安全登山の科学・・・ 12
鹿屋体育大学教授 山本正嘉氏
2022日10月2日発行 A4-17ページ
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