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公益社団法人日本山岳会

フォーラム報告 「登山を楽しくする科学 Ⅷ」 2023年12月

フォーラム「登山を楽しくする科学(XIII)」報告

日本山岳会・科学委員会主催によるフォーラム「登山を楽しくする科学(XIII)」が、2023年12月23日(土)、13時から17時、立正大学品川キャンパス・ロータスホールで開催された。

 参加者は、日本山岳会会員が24名、科学委員会委員が16名、一般参加者が27名及び講師3名(その内2名は日本山岳会会員)で、参加者の総数は70名でした。開催日が年末の、しかも12月23日の土曜日でクリスマスの直前の休日と重なったことも、参加者数が延びなかった原因の一つと推測されます。

 司会は科学委員会の木曽雅昭事務局長が担当し、科学委員会の松本敏夫委員長による開会のあいさつに続き、科学委員会の須田知樹(立正大学地球環境科学部教授)委員から会場として提供いただいた立正大学の紹介があった。

 講演1では、「富士山噴火と登山者」と題して、山梨県富士山科学研究所所長の藤井敏嗣氏(東京大学名誉教授)から、1)富士山噴火の特徴、2)富士山のハザードマップと避難計画、3)噴火警戒レベルと避難行動のきっかけ、4)富士山登山者の特徴、に関して講演頂いた。初めに火山噴火における富士山の特徴や歴史的な経緯及び富士山が活火山であることの認識からハザードマップ作成の必然性が報告された。2023年に富士山火山避難基本計画が作成され、住民だけでなく登山者や観光客をも含めた富士山域からの退避行動の方針が定められたことなど、登山者にかかわる基本計画の具体的な解説があった。また登山者に対しては「富士山噴火時避難マップ」が用意されているが、避難ルートマップを適切に理解できる登山者がどの程度いるかが問題であると指摘された。

   フォーラム会場(ロータスホール)                        藤井敏嗣 氏

 講演2では、「これでいいのか登山道-登山道のあるべき姿と今後を考える-」と題して、登山道法研究会代表の上幸雄氏(日本山岳会会員)から、1)現状での登山道は、“あやふやな存在”で施設としての存在はこれでいいのか、2)無意識、無関心、無防備に対し、利用者としての認識、見方はこれでいいのか、3)現状では、登山道は如何にあるべきなのか、存在としての価値、4)登山道は、“これでいいのか?”、問題提起、課題の解決・改善、5)その問題を解決するためには何が必要か、生みの親、育ての親、理解者の特定、6)大きな視野に立ち、今後は? 登山道の役割をより広く、より多くの人に、7)“道”に関する国内法と“登山道に関する”各国の事情、8)「登山道」がなくなる日は来るのか、等について興味深い講演があった。登山道に関しは、学問上でも、科学的にも、明確に定義付けされてなく、登山道に関する法令がないことが問題である。登山道および付帯施設を提供する側の的確な整備・維持管理、情報提供が求められる一方、利用する側にも、その条件・状況に応じた利用が求められ、提供する側と利用する側の双方に責任と役割分担が必要と指摘された。また、登山道は登山者のためだけの道ではないため、“登山道”に代わって“山の道”という名称を提案された。

 講演3では、「道迷いはなぜ起きる」と題して、フリーライターで日本山岳会会員の羽根田治氏からは、1)登山における道迷いとは? 2)道に迷いやすい地形、状況は? 3)道迷い遭難に陥る典型的なパターン、4)なぜ引き返せないのか? 5)道に迷はないために、等に関する講演であった。警察庁による2022年度の山岳遭難統計では、道迷いによる遭難者は全体の36.5%、次いで転倒が17.2%、滑落が16.5%と報告され、遭難の原因として道迷い遭難数が際立っている。特に山頂からの下りで多発することが指摘された。典型的な道迷い遭難例として、ルートを外れ「何かおかしいな」と感じても、「もうちょっと様子を見てみよう」などと先に進んでしまい、引き返す決断ができず、自分がどこにいるかまったくわからなくなってしまうパターンを示された。先入観や思い込み、固定観念、経験則などにより合理的ではない判断を下してしまう認知バイアスに関する解説であったが誰もが心当たりのある指摘であった。道に迷はないためには、現在地を確認しながら行動し、「なにかおかしいな」と感じたら休憩をとるなどして気分を落ち着かせてから、引き返す判断をすることの重要性が十分に理解できた。

      上 幸雄 氏                            羽根田治 氏

 科学委員会ではフォーラム開催に際し、講師の先生方と会場に参加された皆さんとが活発な意見交換をして頂くために、講演時間をある程度限定させて頂き、十分な質疑応答の時間を確保することを目標の一つに掲げておりました。各講師の先生にはその趣旨を尊重いただき、講演後の質疑応答が活発に行われ、講演内容の理解を深めることができたと思われます。会場を使用利用させていただいた立正大学、また、師走の多忙な時期のフォーラムの運営に協力頂いた科学委員会の委員の皆様に感謝申し上げます。

                           科学委員会委員長 松本敏夫

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