漢方薬は登山にも役立つ
大野秀樹
漢方薬を使用する医師の割合は約90%である。また、すべての医学部・医科大学で漢方薬の講義が実施されているように、すっかり市民権を得てきた。一般に、漢方薬は複数の生薬を組み合わせた方剤(調合された薬)を指す。それぞれの生薬が多くの有効成分を含んでいるため、西洋薬のように症状をピンポイントで抑えるのではなく、複雑多彩な症状に効果を発揮し、その結果、病気に対する抵抗力を高める。そのため、漢方薬と西洋薬は、それぞれの長所を生かして使い分けることが重要である。こんな漢方薬を登山で利用しない手はない。
急性高山病:高山病の予防、治療にしばしば利用されるダイアモックス(一般名・アセタゾラミド)は、利尿作用を有する。血液濃縮が起き、水分補給が困難な高所での利尿剤の使用は望ましくない。一方、柴苓湯(114)は小柴胡湯(9)と五苓散(17)の合剤であり、後者は軽度利尿作用をもつが、脱水のときには水分をキープするユニークな性質があり、主に水分循環を改善する。こうして、二日酔いにも効果がある。さらに、前者の成分である柴胡にはステロイド様の作用がある。ステロイドは高山病治療の切り札の1つであり、体液を調整する五苓散と一緒になった柴苓湯を高山病対策の第一選択薬として推奨したい。実際、前日からの服用で、効果例が数多く報告されている。その他、五苓散単独や、成分が似ている真武湯(30)にも有効例が少なくない。
こむら返り:ほとんどの漢方薬は主として慢性効果を示すが、こむら返りに著効する芍薬甘草湯(68)の急性効果は、全漢方薬中トップクラスだ。多くは服用後5-10分以内に手品のように効果を発揮し、どの西洋薬よりも優れている。芍薬と甘草に含まれる成分が神経筋シナプスのアセチルコリン受容体に相乗作用し、筋弛緩作用を発現する。
疲労感:補剤は消化機能や免疫能を賦活し、体の機能を高めて元気にしてくれる漢方薬であり、西洋薬にはみられない。補中益気湯(41)がファーストチョイスで、効果がなければ十全大補湯(48)、消化器症状を伴っていれば六君子湯(43)がオススメである。
各数字はツムラ漢方薬の番号を示し、大部分は他のメーカーのものと重複する。漢方薬は、「証」(各人の体力・体質・症状など)に基づいた相性が重要であり、違和感を感じたり、効果が少しもみられない場合には、躊躇なく服用を中止して構わない。鍼灸が高山病に有効という報告もあり、漢方薬を中心に東洋医学がさらに登山に応用されることを期待したい。